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第19話 “好きなVtuberたち”の中に“私”は入ってる?

 格闘ゲーム大会『DivineClash』は、俺たち「ブレイド+α」にとって、苦い結末を迎えることになった。


 先鋒として出場した俺は、WINNERS第1マッチで勝利した。

 ――あのときは、いける、と思ったんだ。

 副将のレイナが負けた瞬間も、大将のユエが敗北した時も、きっとLOSERSから巻き返せるって。


 だが、現実は非情だった。

 LOSERS第1マッチ。相手チームの先鋒は幻肢社の九条レム。

 洗練された動き、あらゆる癖を封じる読み。どこか機械じみた彼女のプレイに、俺は何もできずに完敗した。


 ……その後、レイナもユエも敗れた。


 DivineClash本配信が終わったあとの、ディスコードの「ブレイド+α」待機通話チャンネル。

 俺たちは一言も喋らなかった。

 レイナが口を開いたのは、俺が「お疲れ様」と挨拶をしようとした時だった。


「……ちょっとだけFPSやらない?今の私、何か撃たないと無理」


 彼女の声は、悔しさを通り越して、何か必死に平静を装っているように聞こえた。

 その直後、ユエがぽつりと呟いた。「私も撃ちたい」


 そうして、俺たちはそのまま二次会配信を始めた。


 


 ◇




 タイトルは『【VECTRON】負けた時は好きなゲームしよ【ブレイド+α】』。


 「VECTRON」は5対5のラウンド制タクティカルFPS。

 オペレーターと呼ばれるスキル持ちのキャラを選び、チームで勝利を目指す。


 俺、レイナ、ユエが固定枠。残り二人には、うちのコーチ陣――Nokutoさん、YAKOさん、Izanamiさんが交代で入る。


 レイナは本職だけあって、アセンダント帯の化け物レベル。

 ショットコールも的確で、誰もが彼女の背中を信じられた。


 ユエは格ゲー勢ながら、反射神経とエイム力が凄まじく、既にシンスゾーン帯に到達している。


 コーチ陣も当然強く、タクティカル面でもカバー力が高い。


 そして俺も、数ヶ月前まではこれをメインに配信していた。

 ランクはレイナと同じ、アセンダント帯。……正直、今もFPSが一番好きだ。


 最初の試合で、5ラウンド連取の完全勝利を収めた。

 コメント欄は盛り上がる。

『FPS特化チーム強すぎw』『てか格ゲーより上手くない?』『Nokutoのサポート神』


 レイナが笑う。「ほら見て、みんなも言ってる。うちらFPSやらせたら無敵かもね」


 何試合目かのインターバル、彼女はふと真顔で言った。


「今更だけどさ……CHRONOVA、出てたら、いいとこまで行けたんじゃない?」


 俺は少しだけ考えて、ゆっくりと答えた。


「……そうかもな。今更だけどさ」


 そして付け加える。


「でも、こうして好きなVtuberたちと、尊敬するプロゲーマーと、大好きなFPS遊べて……今、超楽しい」


 その言葉が、俺の本音だった。




 ◇




 モニターの光が揺れる静かな部屋。

 そこにいるのは、DivineClashで先鋒全勝を飾り、優勝チーム「神星カンパニー」の顔となった少女――星灯ミラという名前の“私”。


 Xでは彼女の名前がトレンド入り。

 切り抜き動画は大量にアップロードされ、配信の同接も過去最高を記録。


 ……でも、そんな熱狂など関係ないように。

 “私”はひとり、配信後の部屋で黙ってタカアキくんの配信を眺めていた。


 モニターの向こう。楽しそうに笑うタカアキくんと、レイナちゃんたち。

 笑い声が聞こえるたびに、胸が少しだけ痛くなる。


 やがて、ぽつりと独り言ちる。


「その“好きなVtuberたち”の中に……“私”は入ってるの?」


 誰にも届かない、静かな問いだった。

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