第18話 彗星と吸血鬼の夜
最初のラウンド、アナスタシアの足が、俺の指先の入力と完璧に同期していた。
ステージは夜の大聖堂。天井から吊るされたステンドグラスが揺れ、足元には月光が射し込む。そこに立つのは、気高き魔導拳士アナスタシアと、赤黒いドレスに身を包んだヴァンパイアの少女カミラ。
星灯ミラのメインキャラ──いや、今のカミラは、Rekkaが仕上げた“武器”だ。
「──Round 1, FIGHT!!」
実況の冴木ルイが高らかに告げる。
ミラのカミラは後ろに下がる。開幕から強気には来ない。牽制を振りながら、俺の動きを見ている。
「だったら、攻めるぞ──」
俺はステップインから中段蹴り。ヒット確認から『彗星衝牙』をぶち込む。地面に魔方陣が輝き、アナスタシアの拳がカミラの腹を突き抜けたように見えるエフェクト。
ヒット、ダウン。
「おおっと! 彗星衝牙が直撃!これはタカアキ選手、前に出る判断がドンピシャでしたね!」
Rekkaが実況席で唸っている。
ラウンド先取。悪くない立ち上がり。
続くラウンドも、俺はアナスタシアの“万能さ”を活かして、中距離の差し合いで制す。
「よし……一本!」
BO3の初戦、1セットを先取。
でも、ミラは無言だった。カミラの目が、画面越しに鋭くなる。
◇
第2セット。流れが変わったのは、ほんの一手の“待ち”だった。
序盤、こちらがリードしていた。けれど中盤、飛び道具フェイントに釣られてステップインした俺に、『夜宴の棘』が刺さる。
「ぐっ……!」
体力がじわじわと削れていく。
毒、毒、毒。
しかもミラは、さっきまで俺が見せたコンボルートに完全対応している。崩そうと攻めたタイミングを、逆に吸収技『キス・オブ・カース』で迎撃される始末。
「この動き……まさか、リプレイ、全部見返してたのか?」
そうだ。俺の対戦歴が全て見れるガデアリ3のリプレイ機能。
そしてミラは、古参“リスナー”だ。
俺の思考の隙をつくように、カミラの追撃が続く。
再び『夜宴の棘』。タイムアップぎりぎり、体力差でミラが勝ちを掴む。
「一対一……。決着は最終セットだな」
俺はマイクの前で呟いた。
◇
最終セット、最終ラウンド。
アナスタシアとカミラ、どちらも体力わずか。
場面は画面端、にらみ合い。
息を呑む。音がない。俺の指先が熱を帯びる。
飛び道具で牽制──フェイントを入れた。
読まれた。
ミラが即座に前ステップ。来る!
「……彗星衝牙っ!」
拳が月光を裂く──しかし、そこにいたのはカミラの影。
『キス・オブ・カース』。
ヴァンパイアの唇がアナスタシアに触れた瞬間、紫のエフェクトが画面を包む。
ダウン。
カミラ、勝利演出。
膝をつくアナスタシア。
手を差し伸べるカミラ。
そのシーンがスローになって、リザルト画面が浮かぶ。
──星灯ミラの勝利。
◇
負けた。でも、悔しいけど、清々しかった。
「強かったな、ミラ……」
モニター越しに本配信を見ると、Rekkaが試合の感想を答えていた。
「この一戦、初戦ながらDivineClashでも屈指のベストバウトになりうる試合でしたね!」
俺はヘッドセットを外し、深く息を吐いた。
──次は、勝つ。全力以上で。
そう思えた夜だった。