第14話 スクリムだけど推しのVtuberをボコっちゃった件
Nokutoさんのコーチングが熱血すぎて、最初は正直引いていた。
でも、それも最初だけだった。
「タカアキ!今のはカミラの吸収タイミングに付き合いすぎだ!見てからガード間に合うから、焦らない、冷静に!」
「……了解っす!」
口ではそう答えながら、俺は息を整えた。ディスコード越しに飛んでくるNokutoさんの指導は的確で、うるさいけど心地よかった。こんなに一生懸命になってくれる人、他にいないんじゃないかって思う。
最初はボロボロだったガデアリ3の勝率も、Nokutoさんの手ほどきのおかげでじわじわ上がっていった。
昼過ぎに始まった練習配信は、夜を越えて、気づけば深夜まで続いていた。
「おい、タカアキ。ちょっと休憩な。水飲んで。あと手首回して」
「はいはい……」
疲労と集中が交互に波のように押し寄せる。
深夜二時、コンボ練習もそろそろ切り上げようかというころ。
「でさー、やっぱ俺の中で一番は白宮みみなんだよなあ」
突然の話題転換に、俺は苦笑いを浮かべた。
「またその話っすか」
「だってよ、引退しちまったけどあの頑張り、泣けただろ?最後の配信とかさ……」
Vtuberトークが始まると、こっからはもう練習そっちのけだ。
俺とNokutoさんがVtuberについて語る様子が、いつしか切り抜き動画でバズっていたらしい。タイトルはだいたいこうだ——『プロ格ゲーマーと若手ストリーマーが語るVtuberの沼』『深夜テンションで語られる推しの引退エピソード』。
俺はというと、明確な“最推し”は決めていない。
でも、あるときNokutoさんに訊かれたんだ。
「タカアキ、お前の最推しって誰?」
少し考えて、こう答えた。
「誰ってわけじゃないっすけど……最初にVtuberの世界に引き込んでくれた星灯ミラさんには、感謝してます」
それは俺がまだFPS界隈にいたころ。
とあるイベントで彼女と同じチームになった。俺は当時まだ無知で、礼儀知らずで、何気ない言葉で星灯ミラを困らせた。
でも彼女は、それをエンタメに変えてくれた。笑って、受け止めてくれた。
その姿が、ずっと心に残ってた。
◇
数日後、DivineClashの練習試合——通称スクリムが始まった。
俺が所属する『ブレイド+α』と、星灯ミラがいる『神星カンパニー』との初戦。
VCには空劫ユエ、斬波レイナ、俺。
それにコーチ陣であるNokutoさん、YAKOさん、Izanamiさんが入っている。
初戦、俺の前に立つキャラは——カミラ。
Nokutoの予想通りだった。
「来たな、吸血姫。地道に毒と吸収で体力削る系……でも、アナスタシアならやれるぞ、落ち着け」
Nokutoの言葉を胸に、俺はレバーを握りしめた。
アナスタシアは初心者向けのバランス型。
反応が遅れにくく、こちらのペースで試合を運びやすい。
カミラの緻密な持久戦スタイルとは、相性がいい。
俺は思い出していた。
あの日、イベントでミラに会ったときのこと。
軽率な発言をして、周囲の空気が凍りかけたとき、彼女だけが笑ってくれた。
その恩を、今ここで返す。
俺は全力で、カミラにぶつかった。
——でも、結果は意外すぎた。
俺の圧勝だった。
明らかに、カミラの操作がぎこちない。
いつもの星灯ミラじゃない。
◇
「ミラちゃん、大丈夫? ちょっと動き悪かったね」
チームメイトの声が耳に届く。
副将の神さんが茶化すように言う。
「まさかミラちゃん、相手に情報渡さないようにわざとやったとか?」
「……えへへ、まさか~」
大将の神代ユズリハちゃんは、冷静に分析してくれる。
「アナスタシアとは相性が悪かったよ。これからキャラ調整しよう」
「はい、調整していきます!」
笑顔で答えながらも、心の中では違う思いが渦巻いていた。
(どうしよう……ゲームとは言え、タカアキくんの前に立ったら、緊張しちゃった……)
誰にも見せられない顔で、私はそっとため息をついた。