第13話 推しのVtuberをボコボコにしなければならなくなった
イベントへの参加を決めた俺はPCを立ち上げた。目当ては、今日の二十時から配信される主催者――神代ユズリハの配信だ。
画面の向こうで、白銀ボブヘアの美少女アバターが微笑みを浮かべる。透き通るような声が、会場を思わせる効果音とともに響いた。
「みなさん、お待たせしました!ついに開催が決定しました、《GODDESS ARENA 3・ストリーマーズカップ - DivineClash》!今日はいよいよ、トーナメント表と出場者を発表しちゃいます!」
コメント欄が一斉に湧いた。
『きたあああ!』『ユズ様、天使か』『はよミラちゃんのチーム!』『神も出るよな?な?』
画面に華やかな演出とともに、参加ストリーマーたちの顔ぶれが並ぶ。
その中で、俺はすぐに目を奪われた。
チーム名『神星カンパニー』。大将・神代ユズリハ、副将・神、先鋒・星灯ミラ。
「……マジかよ、神さんと同じチームって、凄すぎだろ」
思わず俺は椅子の背にもたれた。
それだけじゃない。ユズリハの声が、さらに衝撃を与えてくる。
「そして、これがトーナメント表になりますっ!」
ずらりと並ぶチーム名の中で、俺のチーム名『ブレイド+α』が表示される。その初戦の対戦相手は――『神星カンパニー』。
俺は天を仰いだ。
「……ウソだろ。初戦でミラと……?」
つまり、自分の初戦の相手は、今も胸の奥で割り切れぬ感情を残したままの星灯ミラだ。
コメント欄にも、それを面白がるような反応が踊っていた。
『tqkqkiとミラ初戦w』『絶対運営が仕組んでるだろ』『元相方対決アツすぎる』『ユズ様、これは神采配』
俺は溜息をついた。「陰謀だろこれ……」
◇
翌日、俺は早速『GODDESS ARENA 3』の練習を本格的に始めた。だが、現実は非情だった。
「うわ、なにそれ。ガード崩れんのかよ!?」「ちょ、空投げ!?え、ウソだろ……」
オンライン対戦では、いわゆる“初狩り勢”にボコボコにされる。初心者帯とは思えない手練れたちに翻弄され、認定戦では案の定、最下位ランク《アプレンティス》に分類された。
俺はディスコードを開き、ためらいつつもユエにDMを送った。
『正直、泣きそう。誰か助けて』
数分後、ユエから返信が来た。
『よし、じゃあ紹介する。タカアキのコーチやってくれる人、見つけたから』
そして数日後。俺のチャンネルで配信が始まった。
タイトルは《プロ格闘ゲーマー・Nokutoによるタカアキ特訓配信》。
配信開始直後から、コメント欄は沸騰した。
『の、のくと!?』『マジで!?』『あの初代・二代目優勝者!?』『タカアキ、どこにそんなコネあんだよ』
画面の向こうに現れたのは、落ち着いた声の青年。Nokuto。格闘ゲーマーとして名を馳せ、ガデアリシリーズでも最古参プロの一人だ。格ゲー未経験者の俺でも名前を知っている伝説の人物。
「どうも。今日から短期間ですが、タカアキくんのコーチをやります、Nokutoです」
俺は画面越しに頭を下げた。「よ、よろしくお願いしますっ……!」
「さっそくだけど、タカアキくん。使うキャラは決まってる?」
「いや、まだ……」
「じゃあ初心者向けのアナスタシアをおススメするよ。貴族出身の魔導拳士って設定で、近距離も遠距離も対応できるバランス型。操作難度も低めだし、なにより……」
Nokutoさんは一拍置いて、続けた。
「ミラちゃんが選ぶ可能性の高いキャラ・カミラに対して相性が良い」
「え、そこまで知ってるんですか……?」
「俺、Vtuberも好きなんだよ。ミラちゃんのガデアリ配信も一通り見てる。タカアキくんとミラちゃんの件も、ちょっとだけね」
俺は言葉を失った。
「本気で恩返ししたいなら、ちゃんと向き合わないとダメだよ。中途半端な気持ちでステージに立つな。星灯ミラに本気で勝ちたいなら、こっちも本気で教える」
そう言って、Nokutoさんは笑う。
「さあ、やろう。泣いても叫んでも、今日から地獄だぞ」
俺は息を飲み、拳を握りしめる。そしてNokutoさんと二人で声を揃えて叫んだ。
「星灯ミラを、ぶっ潰す!!」