事件は旅の始まり
プロローグともいえる第0章でございます。
『【悲報】ワイ(31)、はじめてのおつかいなんだがwww』
高田は嘘をついていた。なんとなくスレッドを立て、「ガ〇ジ」と呼ばれることを期待していた。嘘ばかりつかないように、スーパーマーケットには行くという姑息な手法を用いて、今のところは欺けていた。
しかし、高田はすでにわかっていた。自分がスーパーマーケット専用のプリペイドカードを使っているために、洞察力が素晴らしい彼らが自分がここに行くのは初めてではないということを。
そもそも、ニートの高田には楽しみがそれくらいしかないのである。淡々とパソコンに打ち込む姿に高田の母はあきれていた。
毎日パートに行って疲弊している母だが、自分の年金を合わせても家計はすでに崖っぷちであった。そんな中、少しでも前に進みたいと、お使いを頼んだのであった。
B5ノートの切れ端には、
”””””””””””””””””””””””””””
人参
牛乳
ジャガイモ
シチュールウ
”””””””””””””””””””””””””””
と書いてあった。
「シチューか・・・・」
不運にも、これは高田の嫌いな料理であった。
高田は舌打ちをしながらもいやいや外に出た。
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スーパーマーケットまでは1粁ほどあった。そのまま高田は歩いた。
「みて~おにいちゃんおっきい~なんで~?」
「やめなさい!!」
五歳くらいの男の子が泣き出した。母親は高田に会釈をした。が、高田はそんなことお構いなしに、ズタズタと歩いていった。母親の顔は曇っていた。
高田はその後スーパーマーケットに着き、品を買おうとした。スーパーマーケットだけの建物だったら良かったかもしれない。しかし、あろうことかそこはスーパーマーケットをはじめとした複合施設なのである。なかには、ゲームセンターやフィギュア販売店など、高田にとって罠でしかない。こうしているうちにも、スマホを打ち続け、黒い草を生やされ続けている。彼らは本当にドMであると人のことをいえない高田は思った。
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高田は罠に見事に引っかかった。トレーディングカードのパックをニンジンの代わりに買ってしまったのだ。ただ、高田に悔いはなかった。人参が大嫌いだったので、寧ろ一石二鳥とも思っていた。レスにピリオドを打ちそのまま高田は帰路についた。
百米ほど歩いたさきで、事件は起こった。
高田が転んだ。高田が見上げると、そこには五人ほどのいかにも悪そうな男らが立っていた。
「おい、金持ってんだろ。出せや」彼らはカツアゲを高田に仕掛けてきたのであった。
「……」シャイな高田は何も言うことが出来なかった。
「おい、デブ聞いてんのか」さらに迫っても何も言わなかった。
「ま、どうせ大したことはないんだろ」
「出せ!出せ!出せ!」催促しても高田は動じなかった。
極度なシャイの彼を彼らは自分たちを煽っているのかと勘違いし、激昂しだした。
「話聞いてんのかおまえは!!」
「あ゜…」高田は出そうにも出せない自分の体を責めていた。
「オラァァ!!」
「っ!!」高田に対してはなったリーダー格の男の渾身の一発は、血飛沫をも舞う残虐な一発であった。
高田はそのままガードレールに倒れ込んだ。
「どーした、もう終わりか?金は貰っておくからな…」財布を取り出した。が、そこにはレシートしか入っていなかった。レシートを見た後、リーダー格の男は舌打ちをした。
「おまえの袋見せろ。いいよな」手下が無理矢理うなずかせた。
「ハハ、良いんだ。お前も鈍臭そーだけどそこらへん、ちゃんとしてるな」彼らが袋を見た。
そこには美少女が連なる春芽吹くトレーディングカードがあった。彼らは失笑した。
「ッハお前はヲタクだとは思ったけどよ…まさかそれもッハッハ熨野村みたいになっちまうぜ」
「お前みたいな奴が少子化を進めんだよ!彼女だって出来ないんだろ、、もらってくからなー」
高田の目が明らかに黒くなった。自分の短い足をリーダー格の頸に蹴り上げた。
「あ゛!?」リーダー格の顔がどんどん紅潮していった。
「本気で殴ってやらあ!!」リーダー格は目を開けた。
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(いない!?)男は戸惑った。そのときだった。何発かの銃声の後に、彼の仲間達が次々に倒れていったのだ。何かを理解しようとする間に、もう一発撃ち込まれた。
道には、もがきもせず息絶えた男が人形のように積み重なっていた。
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一方高田は手が震えていた。自分が何をしたのかは分かっていた。人を殺めたのだ。それも複数人。その洞察力と正確なショットは高田は狂わせられたのかもしれない。しかし、高田は銃をエコバッグに入れ、静かに帰った。
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----午前9:12分、死刑囚の死刑執行完了。死亡を確認…
高田は死んだ。死刑である。母は嘆いていた。
これで彼の人生は終わった。でも、世の中何があるのかは分からない…分からないのだ………………