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恋愛・ヒューマンドラマ

華麗なる悪役令嬢の秘密特訓の成果

作者: 二角ゆう

 私はアレキサンドラ、悪役令嬢ですの。


 原作の「ソフィア物語」の主人公ソフィアとディビッド王子の恋模様が大好きですのよ。


 自分がまさかその物語の悪役令嬢に転生したことを知った時に2人が結ばれるために、立派な悪役令嬢になろうと特訓を決意しましたわ。


 まずは立ち振舞ですの。肩幅より少し広めに足を広げて立つ練習は毎朝、鏡の前で練習していますわ。それに大事なことは腰に手を当てて胸を張ることですの。


 それから高らかな笑い方も難しいので鏡の前で仁王立ちしながら練習しますの。


「いきますわよ、おーほっほ⋯⋯もっと腹筋を使ったほうがいいかしら? ⋯⋯おーほっほ! おーほっほ! おーほっ、ごほごほっ⋯⋯」


 ⋯⋯今日は調子が出ませんわね。いつもはもう少し鮮やかな笑い方で自然に振る舞っていますの。


 でもその特訓の成果が出ているようでディビッド王子とソフィアさまの距離がどんどん近づいておりますわ。



 今日も全力で悪役令嬢の秘密特訓の成果をみせますわよ!



 〜王室植物園にある湖の上に立つテラスでアレキサンドラは一方的にソフィアに嫌味を言い放つのです。――――アレキサンドラはテラスからソフィアを無理やり湖に落とすところをディビッド王子に見られていることも知らずに黒い笑みをソフィアに向けたのでした。――――その後ソフィアを助けた王子はソフィアに新しいドレスを用意しました。――――さあ、ソフィアと王子は楽しいお茶会のはじまりです――――[出典:ソフィア物語(一部抜粋)]〜


 アレキサンドラはソフィアとディビッドと植物園で見たこともない大きな植物園に驚きながらも平然を装ってソフィアの隣を歩いていきました。


 そこへディビッドは湖の見えるテラスでお茶をするセッティングを指示するというので行ってしまった。  


 アレキサンドラはソフィアと二人きりになると湖の中央へ突き出したテラスへ行こうと無理やり誘うのでした。


 嫌がるソフィアに「私の誘いでは嫌なのかしら?」と迫り、ソフィアは渋々承諾するのでした。


 さすが、私の見事な悪役令嬢っぷりにソフィアさまは困っていますわね! おーほっほっ!


 アレキサンドラはソフィアとテラスの一番奥の手すりまでやってくると、「貴方のことは気に入りませんわ。いつも私の邪魔をしてくるもの」とソフィアへ嫌味を言うとソフィアは必死になって謝罪するのでした。


「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまったわ。こんなことろまでディビッド王子は来ないでしょうね」


 ディビッド王子、見ていますの? こんなお美しいソフィアさまをこの悪役令嬢が残酷にも湖に落としてしまいますよ! 絶対に助けに来てくださいまし! 私は心を鬼にしてソフィアさまを落としますわ!


 アレキサンドラは高らかにそう言うと、ソフィアを無理やり押してテラスから湖へ落としてしまいました。そしてアレキサンドラは仁王立ちで手は腰ポーズをとった。


「おーほっほ、無様な姿ね。見ていて清々するわ!」


 私は今日も完璧な悪役令嬢が出来たわ! おーほっほ!


 ――――――


 [ディビッド王子の目線]


 アレキサンドラは会ったときから愛らしい少女だったが、ソフィアと出会ってから少し変わった。なぜかアレキサンドラはソフィアとディビッドを2人っきりにさせようと奮闘しているのだ。


 そして2人きりで会った次の日、彼女はご機嫌になるのだった。それが分かってからは、ソフィアはアレキサンドラのやりたいことをなるべく汲み取って実行していたのだ。


 そのうちソフィアの行動もアレキサンドラの意図を汲めとっているように見えたので、そのことを話してみると、ソフィアもアレキサンドラのことが可愛くてしょうがなかったようだ。



 なんとソフィアとは同志だったのだ。



 なので、2人きりの時にアレキサンドラの可愛さについて報告会を開くようになったのだ。



 今日は湖に落ちてずぶ濡れになったソフィアを助け出すと、アレキサンドラはちらちらとソフィアの様子が気になっているようだった。


「ちょうど王子もいらっしゃったのですね。そんなに濡れてしまって大丈夫⋯⋯んんっ私はもう帰りますの」


 言葉とは裏腹にアレキサンドラは今にも泣きそうな顔でしおらしくソフィアを見続けていた。


 そのあと勢いよく2人に背を向けるとソフィアとディビッドから離れるように歩き始めた。だが胸を張って数歩歩くと、頭をがっくり下げてとぼとぼ歩きこちらをちらりと様子見する。

 するとまた勢いよく2人に背を向けると胸を張って数歩歩き、次第に頭を下げてしょんぼりしながら歩いて行ってしまった。


 その様子を見てソフィアは我慢できずにこう漏らした。


「はぁはぁ⋯⋯アレキサンドラさま、なんて可愛いのかしら⋯⋯」

「ソフィア、その物言い気をつけたほうがいいぞ。とりあえずその濡れたドレスは着替えて来るといい。アレキサンドラと2人で何を話したのかじっくり聞きたい」

「えぇ、楽しみに待っていて下さい」


 ソフィアはアレキサンドラが見えなくなるまで見送ると、急いでドレスを着替えに行ってしまった。


 ディビッドはお茶を準備しているテラスまで歩きながら考えた。


(俺の可愛いアレキサンドラはなぜソフィアとくっつけたがっているのだろう? だがその彼女の仕草があまりにも可愛くて、ソフィアも同じような考えだろうから2人でアレキサンドラを見守る会を作ったのだが、彼女のあの言動は何を意味しているのだろうか⋯⋯?)


 ソフィアがドレスを着替えて戻ってくると、ディビッドの隣に座ってお茶を一口飲んだ。


「さぁ、アレキサンドラとの出来事を俺にも聞かせてくれ」

「いいですわよ」


 ソフィアはさっきの出来事をディビッドに話し始めた。



 アレキサンドラはソフィアと二人きりになると湖の中央へ突き出したテラスへ一生懸命指を指した。


「アレキサンドラさまは「ソフィアさま、あのテラスに行きましょ⋯⋯んぐ⋯⋯行くわよ!」って言ったのですの。んんー! 噛んでいる姿も可愛すぎて抱きつきたいのを堪えるのが精一杯でしたわ」

「俺も見たかったな」


 アレキサンドラは鳥の雛のように手を上下にバタバタと動かした。それはソフィアが嫌がってほしい時にいつもする仕草だったので、ソフィアは口を尖らせてみた。


 すると満足そうに両手を腰につけて胸を張っている。


「満足そうな姿を肖像画にしたいほど、愛らしかったのですの。今度肖像画にしませんか?」

「そうだな、お抱えの画家に2枚描かせよう」


「いえ、私は3枚欲しいですわ! 1枚目は普段用、2枚目は保存用、3枚目は何かあったとき用ですわ」

「ほう、其方の考えは素晴らしいな。では6枚描かせよう」


 そう言うとソフィアはにやにや顔を崩すと口元を両手で隠した。


「んんっ! ⋯⋯その後、きらきらと眩しいあの愛らしい瞳を私に向けてきて近づいてくるんですの。それで「私の誘いでは嫌なのかしら?」ってお聞きになるんですわ。眼福すぎて、胸が苦しくって上手く返事が出来ませんでしたわ」

「其方の中身は俺のようだな。羨ましすぎてけしからん」


 ディビッドは悔しそうな顔をした。


(ソフィアはなんて羨ましいんだ⋯⋯俺もソフィアになりたい⋯⋯)


 ソフィアの話は続いた――。



 アレキサンドラはソフィアをちらちらと目配せしながら歩いた。テラスの一番奥の手すりまで行きたいようで、時折空回りして足踏みをしている。ソフィアは口元が緩みそうになるのを手で必死に隠していた。


 アレキサンドラは手すりの前にたどり着くとヒーローポーズのように仁王立ちになって腕を組んだ。


 腕を組むのに慣れていないようで、組んだ腕をそわそわと動かしている。


「もう、本当にディビッドさまに見せたかったですわ。アレキサンドラの仁王立ちは最近ようやく上手くなってきたんですの。でも腕組みは練習中なのか腕を組んでいるのか、自分を抱きしめているのか分からない感じでその不器用さが可愛すぎて鼻血が出そうになりますわ。そこへ「貴方のことは気に入りませんわ。いつも私の邪魔をしてくるもの」って棒読みするんですの」


 ソフィアは興奮してくると、言葉が止まらない。ディビッドはソフィアをただ眺めているだけだった。ソフィアは楽しそうに目を伏せがちに思い出しているようだ。


「アレキサンドラさまに謝ったら「私は悪役令嬢ですの。謝られたら困ってしまいますわ。いえ、謝られてもなんとも思いませんわ」ってまた仁王立ちで手は腰ポーズで言ったあと、私にそっと触れてくるんですの。たぶん私をちょっと押したはずなんですが、アレキサンドラさまの柔らかい手が当たって⋯⋯うへへ、役得⋯⋯それから「あら、ごめんなさい。手が滑ってしまったわ。こんなことろまでディビッド王子は来ないでしょうね」って言いながら、一生懸命王子の姿を探してもいるんですの。

 そのあとアレキサンドラさまは非力なのに健気に何度も背中を押してくるものですから、私自らテラスを乗り越えて湖に落ちましたわ」


 アレキサンドラは湖にソフィアを押して落としたあと、急いで湖の中のソフィアを探していた。そこでようやくディビッドもアレキサンドラを見つけたのだ。


 アレキサンドラは心配そうにソフィアを探していたが、ソフィアの姿を見つけるとほっと胸をなで下ろしたのだった。


 そしてあの可愛らしい、仁王立ちで手は腰ポーズを取ると噛みそうになりながら必死で声を上げて決めゼリフを言った。


「おーほっほ、無様な姿ね。見ていて清々するわ!」


 アレキサンドラは頬を上気させてやりきった顔をした。


 ディビッドは遠くで見ていたが、あまりの可愛さに全身の力が抜けて、その場に膝をついてしまった。


王子は脳内で何度も高速再生する――アレキサンドラは頬を上気させてやりきった顔をした。


(満足そうな顔、可愛すぎるぞ⋯⋯ずっと見ていたい)


 ソフィアとディビッドはアレキサンドラの可愛さにお互い興奮しながら話しては共感すると、それぞれ身悶えしながらお茶を飲んでいた。するとマーティ王子がアレキサンドラと一緒にやってきたのだ。


「お2人とも仲がよろしいようでとてもいいですね」

「ふんっ⋯⋯仲がよろしくて⋯⋯せいぜいお幸せに⋯⋯じゃない見てなさいよ」


 アレキサンドラはぎこちなく腕を組んでそっぽを向く。


(うわぁ、本人のドジっ子っぷりは破壊力がすさまじいぞ⋯⋯俺の心臓も持たないかもしれない)


ソフィアは口元というよりは鼻の方にハンカチを押さえて震えている。


「アレキサンドラ嬢、2人を見て安心しましたか? お帰りであればお送りしますよ。先ほどのケーキお包みいたしましょうか?」

「えぇ、マーティ王子感謝いたしますわ。ケーキ! 是非⋯⋯持って帰ってもよろしくてよ」


(おい、マーティ抜け駆けをする気だな? アレキサンドラに甘いものを食べさせるなんて、そんな至福の時を過ごしていたなんて羨ましい! けしからん! )


 ディビッドはソフィアを見ると大きく頷いていた。


 ―――――


 [マーティ王子の目線]


 アレキサンドラが前からとぼとぼと歩いてくるのが見えた。誰が見ても肩を落として元気がない。


「これはアレキサンドラ嬢、元気がないようですね。これからケーキパーティーでもいかがですか?」

「ケーキパーティー? 是非行きたいわ!」


 それを聞いたアレキサンドラは目を輝かせて何度も頷いた。


(アレキサンドラ嬢はなんて可愛らしいんだ)


 マーティはアレキサンドラを連れて歩いているとちょうどディビッドとソフィアがお茶をしている湖の対岸までやってきた。


 マーティはいつもアレキサンドラがディビッドとソフィアをくっつけようといろんなことをしているのを知っていた。なのでこう提案したのだ。


「ここらへんでお茶をするのはいかがですか?」


 アレキサンドラはそれを聞くと大きな瞳をマーティに向けると満面の笑みになった。


 すぐさまセッティングされてテーブルには3段になったケーキタワーが出来上がったていた。そしてアレキサンドラはそこから取ってもらったケーキを美味しそう頬張っている。


 その様子をマーティは嬉しそうに見ていた。対岸にちらりと目を向けるとディビッドとソフィアは話が盛り上がっているようで、2人とも楽しそうだった。


「あちらにいるディビッドとソフィア嬢も楽しそうですね」


 それを聞いたアレキサンドラはリスのようにケーキを頬張ったまま2人の姿を見た。満足そうににこにことしている。


「ふふっシナリオ通りね」


 マーティは自然とアレキサンドラの口元についたクリームを指で取った。するとアレキサンドラは頬に手を当て顔を真っ赤にした。


「あっあの⋯⋯王子慣れてらっしゃいますね」

「俺は慣れてはないよ。こんなことをするのは君だけだ」


(愛らしいアレキサンドラ嬢、そろそろ俺も我慢できない⋯⋯本気を出そうかな)


「まあ⋯⋯はしたないところをお見せしましたわ」

「そんなことないよ。いつでも見ていたいな」


 そうマーティが言っている間に対岸の声がいつもそう大きくなる。アレキサンドラは2人の声が聞こえてきたようでそちらに目を向けた。どうやら2人のことが気になるようだ。


「アレキサンドラ嬢、終わったら対岸まで散歩はいかがですか?」

「それはとってもいいですわね」


(ディビッドとソフィア嬢もアレキサンドラが好きなようだが、俺は手加減しないぞ! 2人にはそろそろ俺のアレキサンドラ嬢に対する気持ちを見せつける必要があるな)


 マーティとアレキサンドラはお茶が終わると散歩を始めた。次第にディビッドとソフィアに近づいてくる。



 ―――――  



 マーティがアレキサンドラと一緒にディビッドとソフィアの元へやってきたのだ。2人を見るとマーティはにこりとした。


「お2人とも仲がよろしいようでとてもいいですね」


 アレキサンドラはぎこちなく腕を組んでそっぽを向く。

「ふんっ⋯⋯仲がよろしくて⋯⋯せいぜいお幸せに⋯⋯じゃない見てなさいよ」


 ちょっとセリフ噛んじゃったけど、悪役令嬢っぽく言えたわよね!


「アレキサンドラ嬢、2人を見て安心しましたか? お帰りであればお送りしますよ。先ほどのケーキお包みいたしましょうか?」

「えぇ、マーティ王子感謝いたしますわ。ケーキ! 是非⋯⋯持って帰ってもよろしくてよ」


 マーティ王子とお茶をしていて気を抜いてしまったわ。ディビッド王子とソフィア嬢の前だと悪役令嬢を徹底しないといけないわね。用心しないとだわ。


 するとディビッドが近づいてくる。


「アレキサンドラ嬢、今日は私が家まで送ろう。後日スイーツパラダイスをしたいのだが、その話を帰り途中にしてもいいか?」

「まあ、スイーツパラダイス⋯⋯なんて良い響きなの」


 そこへソフィアがディビッドの前に立った。


「いえアレキサンドラさま、帰りは気楽に女子同士がいいですよね?」

「まあ、ソフィアさまの恋バナを聞きたいですわ。じゃなくて聞かせてもらいますわ」


 マーティはソフィアとは反対側からアレキサンドラの顔を覗く。


「先ほどの話の続きもしたいので、ここは私が送ります。まだお見せしていないケーキもあるんです。あちらへ行きましょう」

「見ていないケーキもあるんですの? 迷いますね」


 アレキサンドラは目をパチパチさせながら、誰を選んだら良いのか分からず困ってしまった。


 皆どうしちゃったのかしら?


 その後、ディビッド王子ルート、ソフィアルート、マーティ王子ルートのそれぞれ熾烈な戦いが始まるのだが、当の本人だけ気がついていなかったのである。


(おしまい)

お読みいただき、ありがとうございました。

可愛い悪役令嬢を楽しく描かせていただきました。

タイトルを加筆しました。

誤字・脱字がありましたら、ご連絡よろしくお願いします!

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