【番外編】忘れえぬ思い(3)
「リカ、超特急で用意をお願い!」
「かしこまりました。すぐに軽く入浴をなさってください。着替えがしやすいエンパイアドレスを用意しますので!」
ヴァルドの溺愛タイム。
昼食会もあるのだ。
一度で終わる……と思ったが。
それでは済まなかった、ヴァルドも私も。
昼間の明るい時間。
じっと覗き見されるわけはないが、見られるかもしれないスリル。
さらには扉一枚隔て、そこにみんながいるかもしれないという背徳感。
それらのシチュエーションによる興奮で、気持ちが大変盛り上がってしまった。
そのせいで二度目の溺愛があり、その後は大慌てで自室に戻り、昼食会のために準備することになる。
バスルームに温泉が引かれており、すぐに入浴ができること。リカの采配でエンパイアドレスという、下着の重ね着が不要なデザインを選んだことが功を奏した。
きちんと時間前に準備を完了させることができたのだ!
リカが有能でよかったわ……。
姿見の前には一息する私の姿が映っている。
前世で春と言えば桜。春をイメージする色は淡いピンクだった。でもこの世界では、ミモザの黄色が春をイメージする色でもある。
そこで淡い水色の生地に、ミモザの黄色の花がプリントされた、エンパイアドレスに着替えていた。
これに透け感のあるクリーム色のボレロを羽織ることで、上品な昼の装いにまとまった。
「ミア、準備はできたようだな」
私を迎えに来たヴァルドは、先程とは一転。
碧い色のフロックコートで昼の正装をしている。
それはそれで大変秀麗なのだが。
ここは無我の境地。
煩悩退散。決して変な考えは起こさない。
頭の中で、愛らしいフロストの思い出を展開し、ヴァルドのエスコートで歩き出すと……。
ヴァルドがクスクスと笑っている。
「そんな風に鉄壁の防御を展開されると、なんとしても崩したくなるのだが、リヴィ団長」
そう言って、実に艶めかしい流し目をヴァルドが送ってくる。
その瞬間、脳裏からフロストの映像は吹き飛ぶ。
これにはもう「え、その精神攻撃、止めてください!」と激しく心の中で動揺。
「……さすがに今日の執務があるからな。夜まではお預けだ」
ヴァルドはそう言うと、表情を引き締め、聡明でクールな皇太子様に切り替わってしまう。
こうなるともう、溺愛の名残は一切なく、大変爽やか。
それはそれで……残念と思ってしまうのだから……。
ともかく今は昼食会ということで、そちらに集中。
その昼食会には皇帝陛下夫妻だけではなく、イザーク他の5つの公爵家も参加している。皆、夫人を同伴しており、そして柔和な物腰のケイン大公は、マダム達に大人気!
その結果、不思議な現象が起きる。
昼食会は外交が主体であり、会話の内容も国同士の話が中心になる。だがその後、隣室へ移動すると、外交を離れた話も行われた。それは特に夫人を中心に。
そう、隣室への移動は自然と男女に別れ、男性は男性同士で葉巻や洋酒を手にプライベートな会話を楽しむ。女性はマダムが集まり、お茶会のような他愛のない会話を繰り広げるのだが……。
なんとマダム達が、ケイン大公を自分達の会話の輪へ引き入れたのだ!
彼にはそうしたくなる親しみやすさがあるのだろうが、5つの公爵家の当主たちはビックリ。さすがのヴァルドも驚いている。
だがこの世界。
男性社会であることは事実だが、公爵家の夫人ともなると、我が強い。バシバシ自身の考えを表明するし、男性の顔色を窺うこともあまりしない。
公爵家の次期当主となる令息との婚約。それは年齢一桁前半で決まることがほとんど。つまり女性としては皇族を除き、最上位の令嬢として育てられたのだ。気位も高くなるというもの。
男性陣も「え、ケイン大公は我々と話を……」とは、公爵夫人には言い出せない。
ヴァルドを囲み、5つの公爵家の当主陣は落ち着き、私達はケイン大公を囲み、おしゃべりとなる。
だがケイン大公。マダム達のおしゃべりについていけるのかと思ったら……。
なんとついていけるのだ!
マダムが好きそうなオペラや演劇を観劇しており、ロマンス小説さえ、人気作は知っている。さらにドレスの流行についても詳しく、それどころか夏のトレンドまで知り尽くしているのだ。
「今年の夏は、例年より暑くなると考えられています。よってミア皇太子妃が先取りで着用されている、こちらのエンパイアドレスが特に流行するでしょう。とても美しいですよね。シルエットも。デザインも。何より身に着ける下着も少なくて済むので、着替えも短時間で済みますし、暑さ対策にもなります。それに薄手のコットンで作れば、デイドレスとして日常使いできます。色はやはり白が人気でしょうね。クリーム色やベージュ、薄い水色もいいのでは」
マダム達はもう大喜びで、ケイン大公が男性であることを忘れ、おしゃべりに興じている。
私はというと。
ケイン大公はさりげなく私のドレスについて触れ、褒めてくれたが、これには冷や汗。
ヴァルドとイチャイチャしてしまい、急ぎ着替えるのに最適だったので、このドレスにしました……なんて口が裂けても言えないことだ。
「本当にミア皇太子妃は、そのドレスがお似合いです」
優美に微笑むケイン大公に対し、私は背中に汗がだらだら状態だった。
お読みいただき、ありがとうございます!
明日は午後~夕方までに1話更新し、夜にも更新できたらと思っています。
よろしくお願いいたします☆彡






















































