【番外編】忘れえぬ思い(1)
ピクニック騒動の翌日。
ヴァルドと私は、ブルクセン大公国のケイン大公を迎えることになっていた。
ブルクセン大公国は、大陸にある国ではない。メデタリアン海に浮かぶ小さな島国で、元はルソン国の領土の一部だった。
だが本国から離れていることから、その島の領主は強い自治権と独立性を持つようになる。そしてルソン国は、古来より中立国として知られ、他国に対してもそうだが、自国内でも強い干渉を行わない。
メデタリアン海に浮かぶ島が独立を求めると、あっさり認めた。そして誕生したのがブルクセン大公国だった。
現在、ブルクセン大公国を治めるのは、二十三歳のケイン大公。前大公は冬でも魚を獲るため海に潜るぐらい偉丈夫だったが、狩りで流れ矢を受け、落馬。帰らぬ人になってしまった。
その後を継いだのが次男のケイン。双子の長男もいるのだが、彼は父親とは真逆で病弱。一年の半分以上を寝て過ごす状態だっため、次男に家督を譲り、ケイン大公が誕生した。
ケインが大公になったのは三か月前のこと。大公就任の挨拶とヴァルドの婚約を祝い、帝国へ来ることになった。
海を渡り、大陸に上陸、そこから陸路でルソン国とマリアーレ王国を経て帝国へ至ることになる。途中、ルソン国やマリアーレ王国にも滞在し、そこで外交も行っていた。
ゆえに帝国へ到達するのに時間がかかっており、ようやく到着……となったわけだ。
そしてまさに今、ケイン大公たちが到着し、ヴァルドと私は謁見の間に向かうところだった。
一方の皇帝陛下夫妻は、別の国の大使と会談中。ケイン大公とは昼食会で顔を合わすことになっている。
「ケイン大公。偉丈夫で豪胆だった父親と違い、読書を好む才子で知られているとか。マリアーレ国王は既にケイン大公とは会っているだろうが、どんな人物だと言っている、ミア?」
今日のヴァルドは騎士団長の正装、純白の軍服にアイスブルーのマントと、見ているだけで昇天しそうなカッコよさ。
儀礼用の軍服であるため、戦場でこの姿になることはなかった。皇宮で暮らすようになったことで、見ることが叶った姿でもある。
そして自分にそういう願望があったと、この時に気付いたのだけど……。
この軍服姿のヴァルドに抱かれたい――なんて思ってしまう。
「ミア?」
サラサラのアイスブルーの髪が揺れ、アイリス色の瞳が私を覗き込む。
「! あっ、えっと、ケイン大公。お父様……マリアーレ国王からの手紙によると、読者家の才子らしく、大変落ち着きがあり、物腰も柔和だったそうです」
私は何とか平静を装い、ヴァルドの問いに答える。
「ブルクセン大公国は島国であり、日焼けした海の男のような島民が多く、前大公もそんな感じでしたよね。ですがケイン大公はホワイトブロンドで、肌も帝国の人間のように透明感があるとのこと。前大公妃はケイン大公を出産し、亡くなっています。彼女は帝国にルーツを持つ貴族の出身。その血を継いでいるせいか、ケイン大公もその兄君も、父親ではなく、母親譲りの美肌らしいです。政治力に関しては、可もなく不可もなし。領土拡大や覇権争いに手を出すような傾向は見られず、現状維持の平和国家を願っているようだと書かれていました」
「そうか。密偵の報告と相違はないな。特段、問題なさそうだ」
そこで謁見の間の扉の前に到着した。
一旦そこでヴァルドと共に立ち止まる。
すぐにリカがそばに来て、身だしなみを確認してくれた。離れた場所に、コスタの姿も見えている。
実は二人とも。今朝より皇宮勤めがスタートしていた。昨晩、二人は帝都に到着し、街の宿で一泊。そして今日から宮殿に与えられた部屋に移り、侍女と護衛の騎士、それぞれの役目についてくれていた。
「殿下。今日も男前です」
ソードマスターのマッドは、ヴァルドの護衛にこのまま付くようだ。年齢差はあるだろうに、二人はなんだか友達同士のように見える。
「それでは扉を開けます」
皇太子付きの筆頭侍従が合図を出し、扉が開かれた。
ヴァルドのエスコートで中に入った。
そこには背中の半分まである、見事なストレートのホワイトブロンドの男性が、深々とお辞儀をしている。
「ケイン大公、よくいらした」
ヴァルドのこの言葉で、ケイン大公が顔をあげた。
その瞳は白と水色を掛け合わせたような、白水色をしている。そして私の父親が手紙で書いていた通り、ヴァルドに負けないぐらいの美肌の持ち主。しかもほっそりとしており、柔和な顔立ち。髪の長さもあり、中性的に感じる。
ヴァルドとはまた違う、美しい青年だった。
「初めてお目にかかります、ヴァルド皇太子殿下、ミア皇太子妃殿下。私はケイン・ジョージ・ブルクセンです。この度、ブルクセン大公国の大公に就任し、ご挨拶に伺いました」
その姿にピッタリの高音な声で、ケイン大公は挨拶をすると、柔らかい笑みを浮かべた。
お読みいただき、ありがとうございます!
白水色は造語です。
ケイン大公を繰り返し読んでいると
イケメン大公に見えてきませんか?
そして今回のエピソードから執筆しながら更新となります。
毎日更新できるよう頑張るので応援いただけると嬉しいです~☆彡






















































