【番外編】ピクニック(4/7)
パチン、パチッ、パチと爆ぜる音がする。
そして顔から体まで、あちこちに吹き飛んだ物が当たり、「なんだ!?」とマッドが叫び、「いい香りだな」とヴァルドが言う。
床にコロコロと転がるのは……ポップコーンだ。
「……なんだ。旨いじゃないか。バターの味もする」
マッドは未だ空中でパチパチと弾けているポップコーンを手に取ると、口に放っていた。
「ミア、これは一体……?」
「初代皇帝の魔術……というより悪戯に近い気がしますが、先程の竈のドラゴン。倒すにはトウモロコシの実を食べさせ、その実を弾かせることで、ドラゴンの体も弾き消す必要があったようです」
「なるほど。ドラゴンの体は炎で出来ていた。トウモロコシの実がドラゴンの炎で焼けて弾けて……炎のドラゴンは消え去り、トウモロコシの実はこれになったのか」
ヴァルドも宙に漂う、弾けたポップコーンの一つを口に含み「確かに美味しい」と呟く。
「ともかくここからは出ましょう。次はどんな魔術が使われているか分からないので」
私の言葉に頷くと、ヴァルドはマッドに声を掛ける。
「マッド。剣を」
マッドは左右の腰に剣を帯びていた。今、手にしているのは、左の腰に装備していた剣だった。そして右の剣をマッドから受け取ったヴァルドは……。魔術を詠唱する。
すると剣の長さが変化し、グリップなども一回り小さくなった。
「よし。これであればミアも……リヴィ団長の手に、馴染むのでは? 何が起きるか分からない。丸腰では不安だろう?」
「ありがとうございます、ヴァルド! せっかくならこのドレスもどうにかして欲しいのですが……」
「いいだろう、リヴィ団長」
着ていたアーモンド色のドレスは、ヴァルドの魔術で騎士団の隊服のように変化した。つまりアーモンド色の上衣に同色のズボン。宝飾品はゴールドと、なかなかにカッコいい。
「おやおや、リヴィ団長! ここで会ったが百年目、ですか」
剣を構えたマッドにヴァルドは「初代皇帝はとにかく魔力も強く、使う魔術も奇想天外。気を抜くな、マッド」と命じる。「了解です。殿下」とマッドは胸に手を当て一礼すると尋ねる。
「それでは殿下。窓から行きますか、それともお行儀よく、扉から?」
「窓から出られるのが一番だが、恐らくは……」
そこでマッドが柄頭で窓を突くが……。
ガラス窓は飴細工のはずだが、傷一つつかない。
「なんちゅう強度だ」
マッドがぼやき、ヴァルドが呪文を詠唱し、炎を当てるが……。
飴細工の窓は溶けない。
「窓から出るのは無理なようだ」
ヴァルドは肩をすくめ、水色の飴細工の窓ガラスから外の様子を確認する。私も外の様子を伺うが……。
白い靄が立ち込めているようで、何も見えない。
「ではヴァルド、扉を開け、廊下を進むしかないわけですね」
「そのようだ」
ヴァルドは頷き、それはもう自然な動作で、私に手を差し出している。
こんな状況でも、人が幼い頃から身に着けた習慣は、当たり前のように出るものなのね。
自分の手をヴァルドの手に重ねたものの。
リヴィ団長の姿でヴァルドにエスコートされるのは……変な気分だった。
「では自分から失礼して」
マッドが扉を慎重に開ける。
開けた瞬間に何かが現れる……ということはなかった。
だが……。
「暗いですね。明かりが何もない。壁掛けトーチの一つもない」
マッドの言う通りで、廊下に出ると真っ暗だった。
「おそらく、右側は窓で、カーテンが引かれているだけでは?」
私が予想を口にした時。
「何かいるな」とマッドが鋭く叫び、ヴァルドも「こちらからも何かがくる」と応じる。
つまり廊下の左右から何かが迫っていた。
「赤く燃えるような瞳が見える……」
ヴァルド言う方向を見ると、確かに二つのルビーのような宝石が見える。
それはこちらへ迫って来ていた。
何か獣の目のように思える。
そこで不意に聞こえた「バタン」という音に、悲鳴を上げてしまう。
今までいた部屋の扉が勝手に閉じ、そして狼の咆哮ような鳴き声も響き、赤く輝く瞳がどんどん迫ってくる。
子供の悪戯……そんな魔術にしては怖すぎる!
もしここにフロストがいたら、泣き出しているのでは!?
「くっ」
マッドの方に迫っていたのは、サファイアのような碧い瞳だった。そしてマッドは自らその瞳の方と駆けて行き、どうやら謎の何かと刃を交えたようだが……。
「重い。剣ごと持って行かれるところだった。殿下、気を付けてください!」
「分かった」
ヴァルドが応じた瞬間、すぐ近くで咆哮が聞こえ、悲鳴をあげそうになる。
さらに。
「!」
ものすごい勢いで何かに突撃され、尻餅をつくことになる。
「ミア、大丈夫か!?」
「はい」
「また来たぞ」
マッドが叫び、ヴァルドが動き、闇の中から迫る何かと対峙することになるが……。
姿が見えない。
しかも相当大きく、その肌は鋼のようであり、剣が弾かれる。
ヴァルドは呪文を唱え、明かりを得ようとするが、それはほんの一瞬輝き、すぐに消えてしまう。
そこで私は気づく。
通常の戦闘で、この闇の中に潜む何かを倒すことはできないと。
「ヴァルド、マッド、カーテンを開けてください!」






















































