【番外編】ピクニック(2/7)
親子三人と祖父母とのピクニック。
だが実態は……。
皇太子とその息子と妻、皇帝陛下夫妻のピクニックなのだ。
平凡な家族のピクニックとはならない。
まず、フロストが「ぼくのうしろにたくさんのうまがつづいているよ」と言っていた通りで、護衛の騎士がズラリと付いて来ている。さらに森の入口では、先に到着している護衛の騎士達が待機していたのだが……。
「やあ、ジョン。今日は女装かな?」
そんなジョークを言いながら、私のそばに歩み寄るのは……。髪は銀髪だが、白髪が多い。左眼にはアイパッチをつけ、顔の傷からも歴戦の猛者を感じさせる。淡いブルーのシャツに、革製のベストにズボンと、狩人のような装いだが、眼光の鋭さといい、全身の筋肉といい……ただの騎士ではない。
そう、彼はソードマスターのマッド!
「冬の間、5つの公爵家絡みで動いていたが、ようやく帰還できた。しかし。まさかリヴィ団長がこんなにも麗しいご令嬢だったとは。かなり華奢な少年団長……と思っていたが。いやはや、騙された、騙された」
マッドはそう言うと豪快に笑う。そして。
「あの時は申し訳ないことしたな。未来の皇太子妃を気絶させてしまった」
「い、いえ。あの時はまだお互い、敵同士という認識でしたから」
「殿下は拷問はされない。だが未明まで随分、絞られたようだな? よくそれで正体がバレませんでしたな」
これにはもう「!」と驚くことになる。
どうやらヴァルドはあの夜。
私と一緒にいた部屋に、防音魔術でも使っていたようだ。
あの宿は完全な密室となり、そこで私がヴァルドの純潔を奪い、何度も交わり合っていたことは……気づかれていなかった。代わりに、ついに捕えたリヴィ団長に、ヴァルドは空が明るくなるまで尋問を続けていた……と、思われていたようだ。
あの日の夜。
ヴァルドは拘束魔術にかかり、何もできない状態……だと私は思っていた。
だが本人から「ミア。わたしは君が考えるより、魔力は強く、魔術だって強力だ。他人の魔術を解除するのは、簡単なことではない。だがわたしであれば、確かに強力な魔術ではあったが、解除できた」と自己申告を受けている。
つまりすぐに自由の身となり、私を捕らえることもできた。でもそうはせず、私の好きなようにさせ……。
「魅了魔術にかかったミアに襲われるのは……嫌じゃなかった」
なんてことを私に告げたのだから、ヴァルドは!
「……皇太子妃、大丈夫ですか? 余程、その時の尋問が厳しかったようだ」
「いや、忘れて欲しい、マッド。あの時のことは。私もまんまと敵の手に落ちた黒歴史だから」
「クロ歴史?」
口調は完全にリヴィ団長で、しかも前世の言葉……黒歴史まで持ち出すぐらい、動揺している!
そんな会話を久々に再会したマッドとしながら、森の中へ入ることになった。
その森の中は、宮殿の厨房が引越ししたのかという状態。
つまりそこには竈が用意され、宮廷料理人が忙しく動き回り、既に煮炊きの準備が進められていた。言ってみれば森の中に、青空レストランが突然、現れたようなもの。
「昼を食べ始めるにはまだ早い。どうじゃ、フロスト。初代皇帝が建てた魔術工房を見て見るか?」
「うん! みてみたい、じぃじ!」
「よしよし。連れて行ってあげよう。皇妃はどうする?」
「私はこちらで休憩させていただきます」
そこでヴァルドと私が皇帝陛下とフロストに付き添い、初代皇帝の魔術工房に向かうことにした。護衛にはソードマスターであるマッドと数名の騎士がついてくれている。
「初代皇帝の魔術工房。なんだかお宝が沢山ありそうですね」
ヴァルドと並んで歩き出し、そんな感想を口にすると、彼はクスッと笑う。
「普通はそんな風に考えると思う。だが現実は甘くない」
「!? どういうことですか?」
「帝国は魔術の叡智により、今がある。皇族が魔術の独占で他国より優位に立ち、国内でも競っていた勢力を抑え込むようにしていた。魔術工房にはその魔術の神髄が沢山ある。よって初代皇帝は、自身以外が工房に入れないようにしたようだ」
つまり今も森の中にある初代皇帝の魔術工房には、踏み入ることが誰もできないというのだ。
「備蓄倉庫のことを覚えているだろう? 徹底した初代皇帝の魔術を。あれ以上の魔術で工房は守られており、中に入るのは……無理だ。過去に無謀にも中へ入ろうと試みて、帰らぬ人になった者が大勢いる。突然逝去したと言われている五代目皇帝も、そんな一人だと伝えられているんだ」
「えっ……と言うことは、魔術工房に入ろうとして命を落としたのですか……?」
「いや、魔術工房に入ることはできたが、帰ってくることはなかったと皇族史には書かれている」
衝撃だった。
自身の子孫の命を奪う魔術を掛けているなんて……!
「ある意味、この森が残っているのは、その危険な魔術工房に迂闊に近寄らないため……というのもあるのかもしれない。とはいえ、無理に中へ入ろうしなければ、害はないものだ。見た目もこの通り」
そこで視界が開け、目に飛び込んできたのは……。






















































