【番外編】プレゼント(3/3)
「では犯人は一体……?」
「造作もないこと。すぐに見つけられる」
ヴァルドのこの言葉にフロストが「ほんとうに、パァパ?」と尋ねる。
「ああ。フロスト。お前にだってできることだ。転移魔術は自分が知っている場所、もしくはその場所にいる相手に、強く会いたいと願うことで発動できる。ママにもらった膝掛け。それがある場所へ行きたいと願えば、そこへ転移できる」
これは「なるほど!」だった。
「パァパ、すぐに」
「フロスト。ママとパパと三人で一緒に行こう」
ヴァルドに言われると、フロストはコクリと頷く。
「いずれにせよ、外に出ることになるだろう。上着の準備を」
「かしこまりました!」
マーニーだけではなく、リカも動き、私達三人の上着が用意された。
ヴァルドは毛皮のマント、フロストはウールのローブ。私はロングケープを羽織り、用意は完了。
ちゃんと魔術陣を展開した上で、フロストは呪文を唱える。
「Ad locum patris metastasis」。
フロストが呪文を唱え、次の瞬間。
「……ここは……?」
「宮殿の敷地内にある森の中、だな」
フロストを抱えているヴァルドが風の向きを確認し、そして視線を動かす。
その先を見ると、確かに遠くに宮殿の建物が、木々の間から見えている。
その木々は部分的に雪が残り、そして――。
「あ、見て。あの木。上の方に穴が開いているわ。巣穴でもあるのかしら?」
「どうやらそのようだ。様子を見て見るか」
フロストを私が預かると、ヴァルドは私の腰を抱き寄せ、そして呪文を唱える。
ふわりと体が浮き上がり、これはなんだか不思議な感覚。
そのままふわふわとゆっくり、巣穴に近づいてみると――。
そこには羽がようやく生えそろったばかりのひな鳥がいる。そしてそのひな鳥たちが身を寄せているのが……私がフロストに贈った膝掛けだった。
「なるほど。犯人は親鳥か。これはシジュウカラの一種だな。三月のまだ早い時期に産卵し、ひなを育て始める。ひなに羽毛は生えているが、まだその保温効果は十分ではない。少しでもひなを温めようと、フロストの膝掛けを拝借したのだろう」
「パァパ、ママのプレゼント、とりかえしたら、ひなどりはみんな、さむい?」
「そうだな。まだ雪も残っているし、寒いだろう。今はママの膝掛けのおかげで温かいだろうが」
そこでけたたましい鳴き声が聞こえてきた。
どうやら親鳥が戻ってきたようだ。
ヴァルドは地面へ移動する。
着地すると、ヴァルドは改めてフロストに問い掛けた。
「フロスト、ママの膝掛けを取り戻すか?」
フロストは真剣な表情で考え込んでいる。
「フロストは皇宮に立派な部屋を持っている。部屋には暖炉が二つあり、いつも温かいはずだ。洋服も沢山持っている。それにママは編み物が得意だから、またフロストのために膝掛けは編んでくれるだろう。それでもあの膝掛けを取り戻したいか?」
「……ママはまたつくってくれるよね?」
「ええ、作ってあげるわよ、フロスト」
するとフロストはキリッとした表情になる。
「あげる。ママのプレゼントだけど、とりもどしたら、ひなはみんなさむくなっちゃう」
「そうだな。フロストの膝掛けがあれば、ひな鳥たちは春まで温かく過ごせる」
「それにぼくには、あたたかいおうちもあるし、たくさんあたたかいふくもあるから。いいよ。あれはひなどりにあげる!」
フロストのこの言葉に、私は涙が出そうだった。
恵まれた立場の人間は、傾向が二つに別れる。
富を自らが独占しようとする者たち。彼らは弱者に目を向けることはない。一人勝ちできればといい考え。対して自分は足りているのだから、足りていない人に与えよういう発想ができる者。この発想ができるのが、名君になる人間だ。
フロストはヴァルド譲りで賢く、優しかった。
「フロスト。それは正しい判断だ。きっとフロストのその気持ち、鳥たちに伝わると思う」
親鳥は分かるのだろうか。フロストがあの膝掛けの持ち主であると。
警戒しつつも、申し訳ない気持ちがあるのか。
巣穴を気にしつつ、親鳥が襲ってくることはない。
「では帰ろうか」
「そうですね」
するとフロストは「バイバイ!」と鳥に手を振るのと同時に。
呪文を唱え、周囲の木々に積もっていた雪をキラキラと輝く水蒸気へと変えた。
雪が消えるとあちこちに、春の気配が見つかる。
木の枝には新しい息吹を感じる新芽が。
下草からは春の到来を告げるスノードロップがその姿をのぞかせている。
少しでもひなが温かく過ごせるように。
フロストは雪を溶かしてあげたのね。
その優しさに、ヴァルドと共に思わず笑顔になってしまう。
そしてそれから二週間も経つと、ノースクリスタル帝国にもゆっくりと春が訪れる。
再びフロストがサンルームで日光浴をしていると……。
窓の桟に届けられたものがある。
それは春の到来を告げるダンテライオンの黄色の花だった――。
お読みいただき、ありがとうございます☆彡
ほっこりエピソード回でした。
次はダンジョン風+ラブラブ+ミステリー&ホラー!?
新エピソードもお楽しみくださいませ〜






















































