【番外編】プレゼント(2/3)
朝食を終えると、皇族たちの忙しい一日が始まる。
皇帝陛下は執務に入り、皇妃はパトロンをしている芸術家のところに作品見学へ向かう。私はヴァルドと共に隣国の大使夫妻と会うことになっていた。この冬で任期満了になるその大使は、帰国前の挨拶で宮殿へ来ていた。
大使夫妻とは応接室で会い、和やかに挨拶をすることになった。
二人とも実は既に五十代で、帰国後は国への報告などを行ったら、そのまま隠居生活に入るという。
「実は首都に邸宅はありますが、長男に家督も継ぐので、地方にある別荘に移住するつもりです。そこは南部の温暖な場所で、ワインの栽培で有名な場所。わたしも妻も大のワイン好きですので、これからの余生はワイン造りに挑戦するつもりです」
「いいワインができましたら、皇室へ献上させていただきますわ」
そんな話を聞くと「いいなぁ~」と思ってしまう。
サンレモニアの村では自給自足に近い生活を送った。
それは大変でもあったが、充実している。
ヴァルドと私がおじいさん、おばあさんと言われる年齢になったら、地方でスローライフもいいかもしれない……なんて憧れてしまう。
とは言っても。
まだまだ私達、若いですから!
ということで大使夫妻をエントランスまで見送ったところ。
「ミア皇太子妃!」
フロスト付きのメイドの一人がこちらへと駆けてくる。
「どうしたのかしら?」とヴァルドを顔を見合わせるが……。
なんだかものすごく悲しい気持ちになる。
これは……つがい婚姻の共鳴では!?
そこでメイドに話を聞くと……。
「なるほど。フロストはミアの手編みの膝掛けをかけてもらい、サンルームで日光浴をしていたのか。今日は冬にしては暖かい。フロストの体を温めるぬいぐるみもあるから、少し窓を開け、空気の入れ替えをしていた。そこから何者かが忍び込み、膝掛けを盗み出したのか」
「そうなのです! 皇宮は厳重に管理されているのに、そんなくせ者が忍び込んだなんて。信じられません! 騎士や兵士が今、犯人の捜索にあたっていますが……。足取りはまったくつかめないのです。捜索もそうなのですが、フロスト坊ちゃんがせっかくのミア皇太子妃のプレゼントを盗まれたことに泣き出してしまい……」
ヴァルドは懐中時計を見て「この後は執務で書類仕事だが、フロストに会いに行こう」と言ってくれる。私は結婚式関連で侍従長と打ち合わせだったが、そちらは遅れると言付けを頼み、ヴァルドと二人、フロストの部屋に向かった。
「マァマ、パァパ~!」
既に共鳴により、私は悲しい気持ち満点だったが、泣きじゃくるフロストを見ると……。
私まで涙がホロリとこぼれてしまう。
そんな私とフロストをヴァルドは抱きしめながら、サンルームの状況を確認する。
「窓を開けていると言っても、その幅では子供だってサンルームに忍ぶことはできない。ここに出入りしたのなら、庭園につながる扉ではないと無理だ」
「いえ、扉は鍵をかけており、開けておりません。それに庭園の方には警備の兵士も何人もいます。ですが不審者とは遭遇していないと」
マーニーの言葉にヴァルドは考え込み「そうなると魔術を使ったのか? 転移魔術でこのサンルームに現れ、ミアの手編みの膝掛けを盗んだ……?」と呟くが……。
「サンルームへの侵入方法が魔術であれば、納得できます。誰にも目撃されず、痕跡を残さず忍び込んだのですから。でもなぜ膝掛けを盗む必要が? 私の手作りですが、宝石を飾っているわけでもなく、魔術アイテムでもないのに」
「ミアの熱烈なファンが……下衆な元貴族が、いたと思うが……」
それはもしやビーシダール!?
「ヴァルド、でも、もうビーシダールは悪さなんてできないですよね!?」
「そうだな。それに奴はそもそも魔術は使えない。だが皇宮まで忍ぶなんて尋常ではない。この皇宮にはわたしだけではなく、父上と母上の魔術も張り巡らせている。いわば皇宮全体が蜘蛛の巣のように魔術で覆われている状態。転移魔術など使い、生きた姿でサンルームに現れるなど、まずできないと思うが」
ヴァルドのこの言葉には、一体どんな魔術が皇宮に使われているのかと、一瞬背筋が寒くなる。
もし百年戦争が終結しておらず、皇宮にまでマリアーレ王国が踏み入ることがあったら……。
戦争が終結して本当に良かったと思う。
それはさておき。
「厳重に守られている皇宮に、ヴァルドや皇帝陛下夫妻の魔術をかいぐって姿を現わすなんて……余程のことですよね? まさか5つの公爵家……?」
「それはないと思いたい。和解したばかりなんだからな」
「では犯人は一体……?」
するとヴァルドは朗らかに笑う。
「造作もないこと。すぐに見つけられる」






















































