【番外編】プレゼント(1/3)
ノースクリスタル帝国の冬の寒さはサンレモニアの村より厳しい。
そこで私はフロストのために編み物に挑戦した。
「ミア皇太子妃、もうすぐ完成ですか?」
「ええ。あとはここにボタンをつけるの。普段は膝掛けとして使えるけれど、ここにボタンをつければ、ローブのように羽織って留めることができる。これでお昼寝の時も、庭園にお散歩に出る時にも使えるわ」
「なるほど。それは便利ですね!」
リカに褒められ、少しドヤ顔になった瞬間。
ふわりと背後から抱きしめられる。
清潔な石鹸の香り。
「ヴァルド!」
「フロストへのギフトは完成か?」
ヴァルドは私を抱きしめながら、頬へキスをする。
「はい。もう少しです。ボタンをつけたら完成なんですよ」
「なるほど。では次はわたしにも作って欲しいな」
可愛らしいおねだりに、思わず私は笑顔になるが……。
「いいですけど……ヴァルドが使うサイズとなると……今年の冬に作り終わるかしら?」
可愛らしいフロストに対し、ヴァルドは成人男性。
しかも着やせしているし、スラリとしているが、長身なのだ。
これでローブにもなる膝掛けを編むとなると……。
「それは難しいかもしれないな。ミアが真剣に編み物をする姿を見ていると、わたしは無性に甘えたくなるから」
ヴァルドの細い指で、寝間着の上からなぞられているだけなのに。
目の奥がチカチカし、すぐに編み物どころではなくなってしまう。
「……どうする、ミア。わたしはボタンをつけ終わるまで、待ってもいいが」
待つと言いつつ、そんな風に触れられては、とてもボタンをつけられない!
「……うんっ!」
吸い付くような首筋へのキスに思わず声が漏れ、手に取ったボタンがテーブルの上を転がる。
「ボタンは明日の朝だな?」
ヴァルドに抱き上げられ、既に息が上がっている私は、彼の首に自分の腕をぎゅっと絡めた。
◇
翌朝。
昨晩の乱れ具合の痕跡ゼロのヴァルドが、大天使ような寝顔で休む隣で。
私はもぞもぞと手を動かし、フロストの膝掛け兼ローブを完成させた。
つまり、ボタンをつけることが無事できたのだ!
これをローブとして羽織るフロストの姿を想像し、思わずニコッとした瞬間。
「……ミア」
甘えるようなヴァルドの声が聞こえ、背中からぎゅっと抱きしめられる。
「ヴァルド、見て。完成したの。絶対にフロストに似合うと思うのよ。ねえ、目が覚めているならフロストのところに……あ」
肩にキスをしながら、ヴァルドの手が脇腹を撫で、そのまま下へと移動していく。もう片方の手が胸の先端に伸びて……。
昨晩、あれだけ肌を重ねたのに!
今朝もまた抱かれることになるなんて。
もはや朝の日課が、回復のポーションを飲むことなのは……誰にも言えない夫婦の秘密だった。
◇
「おはようございます、ミア皇太子妃。フロスト坊ちゃまは今朝も元気に目覚め、既に朝食を終えています」
「ふふ。フロストは早寝早起きね。ねえ、見て。マーニー。遂に完成したの!」
クリーム色のドレスを着た私は、完成した膝掛け兼ローブを広げて見せる。
「まあ、とても素敵です。ミルク色に水色の雪の結晶を編み込んだのですね。ミア皇太子妃は手先が器用ですね」
マーニーは私が持参した手編みの膝掛けローブを見て、笑顔になる。
「フロスト、ママからプレゼントよ」
「プレゼント~?」
朝から積み木で遊んでいたフロストを、濃紺のセットアップ姿のヴァルドが抱き上げ、私のところへ連れて来てくれる。
そのフロストに早速、ローブの状態で羽織らせ、ボタンをとめると……。
「可愛い! 似合っているわ、フロスト!」
「まあ、本当に素敵です」
「ミアの手作りだ。温かいだろう、フロスト」
「マァマ、あたたかいよ。ありがとう」
フロストが両手を伸ばすので顔を近づけると……。
頬へ優しくキスをしてくれる。
チークキスではなく、ちゃんとキスをしているのは……。
「パパ譲りでおませさんね。将来、女泣かせになりそうだわ」
「ミア。わたしは君一筋のはずだが」
「ふふ。でも密かに想いを寄せ、涙を呑んだ令嬢は沢山いたのでは?」
するとフロストをちゃんと抱きながら、もう片方の手で私の腰を抱き寄せると……。
「それならミアの護衛に着くコスタ、それにノルディクス。他にも多くの騎士達が、君にゾッコンだったのでは?」
「そんなことはないですよ!」
「皇帝陛下夫妻が部屋を出て、ダイニングルームへ向かわれました」
リカの言葉に、ヴァルドと目配せ。
ヴァルドはマーニーにフロストを預け、私は「では朝食に行ってくるわね」と告げた。
そしてフロストの額へキスをする。ヴァルドも同じようにキスをして、二人でフロストの部屋を出た。






















































