【番外編】新生活(6/6)
温かい湯に浸かりながら、ヴァルドと愛を確かめ合う。
それは……『夜の儀』にも書かれていないこと。
初めての経験だったがそれはもう……身も心もとろけそうだった。
慣れない状況による興奮。
天窓から明るい光が注ぐ、昼間から肌を重ねるという非日常。全身を包むお湯がもたらす肌への感触。
それは絶え間なく気持ちを高め、限りない快感を幾度となくもたらす。
何度も意識が飛びそうになり、浴室に反響する自分の声を聞くことになった。
皇宮の寝室でこんなことは……できない!
なんだかんだで前世とは違い、壁は薄い気がする。
廊下に声だって響きそうだ。
浴室で数度果てた後、寝室へ移動し、二人で一度爆睡となったが。
再び目覚めると、ベッドでも肌を重ねることになる。
でも……。
「ヴァルド、ダメ、そんなに激しくしたら……」
「そんな姿でダメと言われても、説得力がない」
荒い息遣いのヴァルドの声に、キュンと奥が締まり「きつい」と言われてしまうが、そうではない!
「ち、違います! そうではなくて、ベッドが壊れます!」
そうなのだ。
皇宮のベッドと違い、簡易なベッド。
旺盛なヴァルドの体力に、ベッドの強度が心配だった。
「ではもう一度浴室へ行くか?」「!?」
この日は本当に。
二年前のあの夜以上の快楽の果実を、ヴァルドと貪ってしまった気がする。
でもヴァルドも私もまだ若く、体力もあるのだ。
何より常に警護をする騎士や兵士に囲まれている。こんな風に完全に二人きりで一日を過ごす機会が、そうはなかったから……。
外は白銀の世界。
全てが白い雪に覆われている。
そんな中、私とヴァルドは……。
実に濃密で激しく、甘い時間を過ごすことになった。
◇
「マァマ、パァパ! おかえり!」
翌朝。
腰砕け状態だったが、備蓄倉庫にはたっぷりのポーションがあった。そこでなんとか体を回復させ、倉庫から出ることになる。
ヴァルドはポーションを飲まずとも、普段通りで元気いっぱい。しかもアイスブルーの髪をキラキラとさせ、昨日一日の溺愛の名残はどこにもなかった。
私とあんなことやこんなことをしたというのに。
爽やかなその姿は、気高く美しい皇太子様だった。
「では扉を開ける」
ヴァルドの言葉に頷くと、彼は両手で思いっきり扉を押す。
扉が開くと、心配そうにこちらを見ている皇帝陛下夫妻、イザーク達公爵家の面々の顔が飛び込んでくる。そこには皇帝陛下に抱っこされたフロストの姿もあった!
「イザーク、とんでもない悪戯をしてくれたな。他の公爵家とも打ち合わせをするはずだったのに」
正直、ヴァルドは怒っていない。
むしろ閉じ込められてよかったと思っているが、ここは自らの威厳のため、イザークに注意をすると……。
「なんのことだ!? 僕は何もしていないぞ! 濡れ衣だ!」
これにはヴァルドと私は顔を見合わせることになる。
そうなると他の公爵家の人達の仕業?とばかりにヴァルドが彼らを見ると……。
「自分達は何もしていませんよ!」と全員大きく首を振る。
となると皇帝陛下の悪戯?
まさか皇妃ではないと思う。
「ははは、ヴァルド。さすがのお前でも分からぬか? 犯人というより、偶然と思うぞ」
皇帝陛下の言葉にヴァルドはハッとした表情になるが、それは私も同じ。
まさかとは思うが、備蓄倉庫の魔法を発動させたのは……フロスト!?
「皇妃に抱かれたフロストは、備蓄倉庫で見た沢山の魔術に興奮状態だった。そして自分も何かすごい魔術を使いたくなったのだろう。ふんだんにある雪で、ドラゴンを作り出し、それが激しく空を舞い、そして……扉に激突して消えるという演出を行なった」
「それが攻撃と見なされた……?」
ヴァルドは驚愕しながら、フロストを皇帝陛下から受け取る。
「そのようだ。だがらこそ二人は備蓄倉庫に閉じ込められたわけだが……どうせ『スノー・スリープ・デイ』で、大してすることはなかったのだろう? いい休暇になったのでは? わたしも皇妃とフロストと三人。昨日は一日楽しく過ごせた。たまにいいのではないか。わたし達にフロストを預け、二人で過ごしても。なあ、フロスト?」
「じぃじ、ばぁば、だいすき~」
フロストはヴァルドに抱かれながらも、皇帝陛下夫妻に笑いかけた。すると二人は完全に目尻が下がり「フロスト、またお馬さんごっこをして遊ぼう」「動くユキウサギを見せてあげますよ」とニコニコしている。
さらに。
「フロストは一人子では可哀想だ。ぜひフロストそっくりの弟や、今度は女の子の顔を見たいぞ」
なんて皇帝陛下が言うのだから、ビックリだ!
でもこれは婚儀を挙げる前だが、ヴァルドと私は二人目の子供を授かってもいいというお墨付きをもらえたということ。
それは嬉しくて心臓が高鳴ってしまう。
一方、フロストをぎゅっと抱きしめたヴァルドは、フッと口元をほころばせる。
そしてこの日の夜。
私はヴァルドの寝室へ向かったが、そこでこんなことをヴァルドから告げられる。
「フロストを今朝、抱っこした時。つがい婚姻による共鳴を感じた。フロストの想いがわたしの中に届いたが……。森の中でピクニックするわたし達三人の姿。そしてわたしとミアが向き合い、微笑む姿が脳裏に浮かんだ。もしやミア、三人でピクニックに行こうと、フロストに話したのでは? さらにわたしと二人でのんびり過ごしたいと、フロストの前で願ったのでは?」
これには「!」と思うことになる。
確かに私は眠っていたフロストに「フロストとヴァルドと三人で、暖かくなったらピクニックにも行きたいわ。それにヴァルドと一日、のんびり二人きりで過ごしたいわよね……」と話しかけていたのだ。
それをヴァルドに話すと……。
「フロストはミアに似て聡明だ。君の願いをきき、叶えてくれたのかもしれないな。靴下が備蓄倉庫に不自然に落ちていたのも、わたしとミアを二人、倉庫へ残すためだったのかもしれない」
もしそれが本当なら。
フロストは天才だと思う!
「きっと弟や妹ができても、フロストは喜ぶはずだ。わたし達も頑張らないとだな」
そこでヴァルドが私の腰を抱き寄せる。
『スノー・スリープ・デイ』の翌日以降。
ヴァルドと私の甘い甘い夜が始まった――。
お読みいただき、ありがとうございました!
ラブラブな二人の番外編でした〜
お次は愛らしいフロストのほっこりエピソードを更新します♪
2月1日からスタートです☆彡






















































