【番外編】新生活(4/6)
備蓄倉庫というが、元は籠城のために用意されていた部屋。トイレやバスルームに加え、寝室も残っているというので見に行くと……。
寝室はちゃんと使える状態だった。
つまりはマットレスや掛け布団やシーツなどもきちんと棚に用意されていたのだ。
さらに。
その寝室の隣の部屋には……。
「ミア、ここにジャムやフルーツのコンポートもある。干し肉や瓶詰めのピクルスもあるぞ」
「本当ですね! これで食事は問題ないと。そちらのテーブルに用意するので、ヴァルドは椅子に座ってお待ちください」
するとヴァルドはアイスブルーの髪をサラリと揺らしてフッと笑う。
「ミア、サンレモニアの村で共に過ごして分かっているだろう? わたしだって家事は出来る」
「えっ!? た、確かに家事はできますよね。ですがその時と今では事情が……」
「関係ない。ここで今、ミアとわたしの二人きりなんだ。身分の優劣を考える必要などないだろう?」
そう言われてしまうとそうなのだけど……。
「考えている間に手を動かす、だろう?──リヴィ団長?」
「!?」
ヴァルドが腰を抱き寄せ、そんなことを言うので、いろいろな意味でドキッとしてしまうが。とにかく昼食の準備を二人ですることになった。
もしもの備えでヴァルドが短剣を持っていたので、パンを切ることも出来たし、フルーツのコンポートもスムーズに取り出せた。
お皿やグラスも備蓄されていたのは、本当に良かったと思う。
「良し。食べよう、ミア」
こうしてヴァルドと、物資整理用のテーブルに用意した昼食を並べ、食事開始となる。
「これを食べ終えたら、バスルームやレストルームの様子を確認しよう」
「そうですね。……フロストは寂しがっていないかしら?」
「つがい婚姻の共鳴では、何も感じていない。フロストのそばには父上と母上も、乳母もいるんだ。大丈夫」
大丈夫……。
それは安堵できることだが、同時に少し寂しい気持ちにもなる。
フロストは私がいなくても平気なの……と。
「日中はわたしもミアも忙しく、フロストと過ごす時間は、サンレモニアの村にいた時より減っている。もしそれでフロストが一人ぼっちなら、寂しがって泣きもするだろう。だがそんなことはない。そばには乳母もいるし、沢山の使用人がいる。皆からの愛情を感じれるんだ。わたしとミアがいない時間を過ごすことに、フロストは慣れてくれたのだろう。ミアも幼い頃はそうだったのでは? 乳母に育てられ、母君と接する時間は限られていた」
それはまさにその通り。王侯貴族の子育ては、乳母に任せるのが当然。母親は自身の社会的役割を果たすことを求められられた。
何より子供は少しでも早く成長し、精神的に自立することが求められるのが、この世界の価値観。前世の感覚とは大きく違う点だ。
前世記憶があるため、気持ちとしてはフロストのそばにいたいのだが……そこは郷に入っては郷に従えだ。その分、フロストと過ごせる時間には、たっぷり愛情を注ぐようにしていた。
「ミアが寂しい気持ちになると、それがフロストに伝わり、泣き出してしまうかもしれない。フロストと今、離れている状態だが、それは一時のこと。むしろ『ママは元気だから、フロストはマーニーの言うことをちゃんと聞いてあげてね。明日の午前中には戻るから』と念じた方が、フロストは安心できるはずだ」
「それはその通りですね! 敵に捕まったわけではなく、ヴァルドと二人。何も恐れる必要はないですよね」
「その通りだ。それにこの場所は明日の朝まで世界で一番安全な場所でもある。心配は無用だ」
世界で一番安全な場所……。
そしてヴァルドは世界で一番強いと思う。
その剣の腕も。魔術も。
そのヴァルドと一緒なのだから、ここはどんと構えていいのだわ。
ようやく気持ちが軽くなった。
よくよく考えれば、今日は『スノー・スリープ・デイ』。みんな家の中で、家族との時間を過ごしている。
ここにフロストがいないのは残念だが、こうなっては仕方ない。フロストはきっと、皇帝陛下夫妻……おじいちゃんとおばあちゃんと楽しく過ごしているはず。
ヴァルドと私がここに閉じ込められたのだ。フロストが寂しくならないよう、おじいちゃんとおばあちゃんは奮闘してくれると思うのだ。そこはきっと前世とこの世界、変わらないと思う。孫に祖父と祖母は弱い!
「ではミア、昼食も終わった。探検に出ようか」
「探検! 面白そうだな。行こうか、ヴァルド皇太子殿下」
リヴィ団長の口調で応じると、ヴァルドがフッと口元に笑みを浮かべた。






















































