【番外編】新生活(3/6)
「マァマ、みて、すごい……」
備蓄倉庫はまるでワンダーランド!
木箱の中からワインのボトルが次々と運び出されているが……それは人の手によるものではない!
ヴァルド達皇族と5つの公爵家の人達による魔術で、宙に浮いているのだ!
さながらランタンフェスティバルで浮かぶランタンのように、ワインのボトルが浮かんでいる。
「次は金物屋のライリー一家」
帝都民の名が記された台帳を手にしたイザークの言葉に、ヴァルドが頷く。木箱から取り出した保存用の甘いパンを、まるで鷹を空に放つように手から離すと……。
パンは一本のワインボトルのところまでフワフワ飛んで行き、その側に到達した瞬間に輝き、ワインと共に消えている。
こんな風にして帝都民にワインとパンを届けていたのね……!
ヴァルドだけではなく、皇帝陛下も皇妃も、イザーク自身も読み上げている合間に魔術を使い、配達を行っている。
「パァパ、パァパ!」
なんとフロストも自分がやりたいと言い出す。
ヴァルドはフロストを抱き上げると、「フロスト、この魔術にはいくつかコツがある」と説明を始める。
「パァパ、こう?」
「そうだ。転移魔術は、移動先やそこにいる人を知らないと使えない。そこはパパがやるから、フロストは木箱からワインを出して欲しい。出来るか、フロスト?」
「できるよ!」
フロストは、まるで隊列を組んだ兵隊の行進のように、ワインのボトルを並べて浮かべた。そこにいた全員がそれを見て驚き、喜んでいる。
「フロストは本当に魔術の才能がある」
皇帝陛下はフロストの頭を撫で、もうデレデレ。
こうしてお昼前に、各家にワインとパンを贈ることができた。
「フロスト、よく頑張った。帝都民もみんな喜んでいるぞ」
ヴァルドにそう言われたフロストはニコニコと喜び、「バァバ」と手を伸ばし、皇妃に抱っこしてもらう。
「では一仕事終えたところで昼食にしよう。皆、ダイニングルームへ』
皇帝陛下の合図に、皆が移動を始めるが……。
「ミア、あれはフロストの靴下では?」
ヴァルドに言われ、後ろを振り返ると。
小さな手の平サイズの毛糸の靴下が、丸まって床の上に転がっている。
「まあ、いつの間に!」
私が拾いに行こうとするとヴァルドが呪文を唱え、靴下がフワッと浮き上がると同時にバタンと扉が閉まる。
「!?」
ヴァルドが驚いた表情になる。
私は再び床に落下しそうになっているフロストの靴下をキャッチし、ヴァルドに尋ねる。
「どうしました?」と。
「……イザークのいたずらかもしれないな。昼食の後、公爵家面々との会議を予定していたのに」
ヴァルドがため息をつき、扉に手を触れる。
「えっ、扉が閉じただけですよね?」
「この扉には初代皇帝の魔術が掛けられている」
「そうなんですか!?」
ヴァルドは頷き、話を続ける。
「元々ここは備蓄倉庫ではなく、籠城用に作られた部屋だ。扉に対し、攻撃と見做される魔術が行使される。すると扉に掛けられた魔術が、それを感知。その結果、扉は閉ざされ、丸一日。何をしても扉は開かなくなるんだ。それは内からだろうと、外からだろうと、一切何をしても開かない。魔術を使おうと、物理的に何かしても、開けられない。傷一つつけられないんだ」
「そ、そうなのですか!? では壁を壊すのは? 転移魔術は?」
「この壁は厚みが5メートルもある。その上で幾重にも魔術が掛けられているんだ。この場所が最適な状態を維持できるよう、湿度、温度、空気すら調整されている。破壊をもたらすような魔術は無効化される。転移魔術は使えない。敵の侵入を防ぐためだが、同時に内側から外へ転移することも出来ない」
そんなに魔術が使われていることにビックリしてしまう。
「魔術を使うより、それこそ物理的に破壊した方が早いが、それでも時間がかかる。それなら明日のこの時間に、魔術が解除された扉から出るのが妥当だ」
「なるほど……。つまり私達はここに閉じ込められたということですね?」
「そうなる。ただ、幸いなことにここにはワインとパンがある。そして籠城に備えているから、レストルームやバスルームもあり、湯を引いた水路も残っているはずだ。今は止めているだろうが、私達二人が閉じ込められたことに皆、気がついている。きっと水路を開いてくれるだろうから、明朝まで快適に過ごせるはずだ」
これを聞いていろいろ安堵する。
魔術で湿度や温度を管理しているということで、私達二人がいることを踏まえた、快適環境に調整もなされているようだ。
寒くもなく暑くもない。それに食料もあればトイレや入浴も出来るなら、ちょっと外泊するようなものでは?
「ヴァルドは執務は大丈夫ですか?」
「……仕方あるまい。出られないのだから悔やんでも意味がないからな。それよりもミア、お腹が空いたのでは? ワインとパン以外の備蓄もあるかもしれない。探してみよう」






















































