【番外編】新生活(2/6)
フロストの部屋を出て、自室へ向かい、廊下を歩いている時。
いつにない冷え込みを感じた。
窓は結露で外が見えない状態だが……。
「雪が降り始めています。マリアーレ王国と違い、帝国の冬は雪が多いと聞いていますが……。今年の帝都は例年より、雪が少ないそうです。それに帝都は物流を止めないため、徹底した雪の管理もされているので、あまり雪が積もっている実感がなかったのですが……。明朝は白銀の世界かもしれませんね」
リカの言う、徹底した雪の管理。
帝都の中心部で湧いた温泉の地熱を使い、石畳の道路を温め、雪が積もらないようにしているだけではない。5つの公爵家と皇族の魔術により、屋根の雪も定期的に地上へ移動させているのだ。
彼らの活躍で、帝都民は雪かきに日々を追われることはない。雪国ながら、冬でも帝都民にゆとりがあるのは、皇族と5つの公爵家の魔術のおかげ。これまで帝国が外交に積極的ではなくても、国として問題なく機能していたのは……国内で皇族と公爵家の人気が根強かったというのもある。
そんな皇族と公爵家の人々であるが、さすがに夜は普通に就寝となるのだ。ゆえに朝一番では帝都も雪に包まれた世界になっているかもしれない。
「聞いたところ、あまりにも雪が積もった日は、『スノー・スリープ・デイ』にするそうです。みんな冬でも勤勉に働きますが、不意なお休みは嬉しかったりしますよね。あえて雪を残し、その日はゆっくり部屋で過ごすことを推奨するそうです。雪を残し、代わりにその日は、皇族と5つの公爵家からワインと保存用の甘いパンが届けられるそうで。大人も子供大喜びで、その日を家で過ごす。家族の団欒の時間を持てると、スノー・スリープ・デイを楽しみにしている帝都民も多いそうですよ」
保存用の甘いパンとは、前世で言うならシュトーレンのようなもの。生地にはたっぷりのバターが使われ、その表面には粉砂糖がまぶされている。さらに生地にはドライフルーツやナッツを練り込まれているのだ。洋酒に漬けられたドライフルーツは甘みも増し、味が生地に染み込みとても美味しい。
一か月ほど持つため、帝国では備蓄として冬になると、このシュトーレンにも似た保存パンを用意しているのだ。
日持ちするが、永遠に食べられるわけではない。スノー・スリープ・デイを使い、消費していないパンを帝国民に提供しているのだろう。
リカとそんなことを話しているうちに自室に到着した。
「ミア皇太子妃、ゆっくり体を温めてくださいね」
「ええ、そうするわ」
たっぷりの温泉に浸かり、この日の夜はベッドに潜り込むことになった。
◇
目覚めると、いつもより部屋の気温が低く感じる。
まずはブルーラベンダー色のウールのガウンを羽織り、そっと窓に近寄り、結露を拭くと……。
白銀の世界がぼやっと浮かび上がる。
昨晩、リカが言っていた通りだ。
空は晴れているが、雪が積もっていた。
「おはようございます、ミア皇太子妃!」
元気よくリカが部屋に来てくれて、クリーム色のドレスに着替えることになる。
着替えを終えるとまずはフロストに会いに行く。
既に乳母が食事を済ませてくれており、フロストはフカフカのウールのローブをつけてもらい、ベビーベットから窓の外の様子を見て興奮している。
「マァマ、おそとがまっしろ!」とはしゃぐ様子は実に可愛い。
そこにヴァルドもやってきて、束の間の親子三人の時間。でもすぐに大人は朝食だ。
その朝食の席で、皇帝陛下はこう宣言した。
「今朝は久方ぶりの積雪だ。今日は『スノー・スリープ・デイ』にしようと思う。各国の使者も今日は宿から出られず、宮殿に来ることもできまい」
これを聞いた私は、前夜のリカの言葉を思い出す。
帝都民は、スノー・スリープ・デイの日、仕事も学校も休み。のんびり家で家族と過ごす。ワインと甘いパンも届くのだ。不便はない。
そして各国の使者も宿に缶詰めになるなら……。
ヴァルドとのんびり、フロストと三人で過ごせるかもしれない!
そう思ったが……。
「ではいつも通り、ワインとパンの配布ですね。公爵家にも連絡をとります」
セレストブルーのスーツ姿のヴァルドが、慣れた様子で応じている。
「そうだな。備蓄倉庫に集合するよう、連絡をとるように」
「かしこました」
ヴァルドと皇帝陛下の会話に「ああ、なるほど」だった。
魔術を使える彼らに積雪はあまり関係ない。馬を出さずとも連絡を魔術で連絡をとれるし、転移魔術も使える。これから午前中いっぱいをかけ、ワインと甘いパンの帝都民への配布活動を行うのだろう。
それならば……。
「私は魔術を使えませんが、何か手伝えることがあれば、協力したいのですが……」
これを聞いた皇帝陛下夫妻とヴァルドは一瞬、目が点になったが、すぐに全員笑顔になる。
「素晴らしい心意気だ。では立ち合いに協力してもらおう。そうだ。フロストも温かくして連れてくるといいだろう。いろいろ楽しめると思うぞ」
皇帝陛下の言葉にヴァルドも頷く。
「ミア、ありがとう。君のそういう気遣い、とても嬉しく思う」
こうして朝食後、フロストを連れ、私は備蓄倉庫へ向かうことにした。
お読みいただき、ありがとうございます!
挿絵として登場しているシュトーレンにも似た保存パンの画像ですが
なんと、なんと!
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