雪解け
リカは私と一緒に帝国へ行くことを願った。これは……。
「ミア皇太子妃の護衛騎士にしてもらえないですか。夫婦揃ってお世話します!」
そんなことをコスタは言い出したが、ヴァルドは「いいのではないか。実力はお墨付きだ。騎士団の副団長を引き抜いたと怒られそうだが。マクシミリ国王に聞いてみよう」というのだから……。
コスタは大喜びだ。
一方のノルディクス。
婚約者はいないが、文通をしている相手がいるという。その相手は、なんとサンレモニアの村の村長、ミーチルの孫であるハナだ! 九歳の年の差があるが、あの日村に来たノルディクスに、ハナはお茶を出していた。それをきっかけに、密かにハナは片想いを始めたようなのだ! 別れ際、ハナはノルディクスに連絡先を聞き、そして彼女から手紙を送ったと言うのだから……。
なんだか甘酸っぱい恋の始まりの予感に、胸がキュンキュンしてしまう。
中立の立場のサンレモニアの村人。彼らには身分がない。よって少し気は早いが、ノルディクスとハナの結婚は……。国王である私の父親が認め、かつハナに爵位を与えれば可能だった。
とはいえ、まだハナは十六歳。それに今はただの文通友達だ。でも今後二人はどうなるのか――。
そこは楽しみでならない!
ということでおしゃべりは尽きないうちに、応接室へ到着。
フロストを抱いたヴァルドと共に、中へ入った。
ワイン色の絨毯に、茶色の革張りのソファ。暖炉がよく燃え、窓からは冬の午後の陽射しが届いている。ひとまずヴァルドと並んでソファに座ると、メイドがすぐにお茶を運んでくれた。
そのメイドと入れ替えで、父親であり、国王マクシミリが部屋に入って来た。
「ミア……!」
約二年ぶりで再会した父親。その姿を見た私は……。
激変していることに驚いてしまった。
「ち、父上、どうされたのですか!? ご病気なのですか!?」
父親のブロンドの髪には白髪が増え、頬もこけ、痩せ細っていたのだ。いつもの毛皮のマントも、心なしかくたびれて見えてしまう。
「いや、病気ではない。ただ……。ミア。お前が王宮から消え、申し訳ないことをしたと、贖罪の日々となり……。以前より食欲が落ちただけだ。わしのことは気にしないでいい。そしてこの子がフロストか!」
痩せてやつれているが、声の力強さは昔のまま。
さらにフロストを抱き上げるその笑顔には、元気がみなぎっている。
だがしかし。
まさか私が王宮から逃亡したからと、食事が喉を通らなかったなんて……。
父親は孫となるフロストを抱っこしたまま、ソファに腰かける。
その上で対面のソファに座る私に深々と頭を下げた。
「ミア、本当に申し訳ないことをした。百年戦争が終結し、功労者であるお前は、ゆっくり余暇を過ごせるはずだったのに。昔のわしの愚かな思い付きのため、大変な思いをさせてしまった。さすがに王妃には事情を話すことになり……。ものすごい剣幕で怒られ、そこで目が覚めた。すまなかった、ミア」
「考えを改めてくださり、それは本当に良かったと思います。結果として、私はこの通り。無事です。フロストも誕生しました。父上がヴァルドの提案も受け入れてくれたおかげで、彼とも結ばれることができたのです。当時は確かにいろいろありましたが、全て一件落着となりましたから」
「ミア、お前はなんて優しいんだ……」
父親が涙をポロポロこぼすと、フロストは「じぃじ、元気、出してー」と、魔術を使い、氷でできた鳥を飛ばす。父親は驚き、すっかり涙も引いている。
「本当にヴァルド殿とミアの子なのだな。このブロンドとアイリス色の瞳。そしてこの魔術」
そこで父親はヴァルドにもお詫びの言葉を重ね、私達は雪解けを迎える。
そう、ちゃんと和解できたのだ。
「では王妃も王太子も第二王子も。そして双子の王女達も。みんな待っている。共に食事をしよう」
こうして私達はダイニングルームへ向かい、家族とも再会。ヴァルドとフロストのことも紹介することができた。食事の席は空白の時間を埋めるかのようなおしゃべり合戦。話は尽きない。
本当は泊って行きたかった。しかし、非公式で訪問をしている。そこで昼食を終えると、帝国へ戻ることになった。
別れの挨拶の前に、リカとコスタのことを父親に話した。今の父親は贖罪の気持ちも強いので、あっさり許可をくれる。つまり二人とも、私の侍女と護衛として、帝国へ向かう許可ももらえたのだ!
これをリカとコスタに伝えると、二人とも大喜び。
魔術陣が展開され、マリアーレ王国を出発するとなった時。
私はヴァルドに尋ねる。
「ねえ、ヴァルド。寄り道をしたいの。いいかしら?」
「勿論だ。妻の願いをかなえるのは、夫の役目だ」
ヴァルドは私の手を取ると、甲へと優しくキスをして微笑んだ。
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【お知らせ】新作スタート
『陛下は悪役令嬢をご所望です』
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「……君との婚約は破棄させてもらう! ここにいる男爵令嬢を君は深く傷つけた!」
婚約破棄された悪役令嬢に、取引を持ち掛けたのは、血塗られた玉座に君臨する王だった――。
前世知識と機転で、困難を乗り越える私だけど、恋心には鈍感です!?
ページ下部にリンクバナー設置済。
初日は増量更新です。
ぜひお楽しみください☆彡






















































