二つの国で
現在はようやく落ち着いた……わけはない。
結婚式をすっ飛ばし、子供の誕生に至っていたが、それは本来許されることではない。なぜなら王侯貴族の結婚は、国民にとっても一大イベントなのだ。お祝い事であるし、経済への影響もある。
つまりちゃんと両国で結婚式を挙げなさい――となったのだ。
まずはマリアーレ王国で。次に帝国で。
二回も結婚式をすることになると思わなかった。しかし皆がそれだけ祝いたいと思ってくれているのだ。それは有難いことでもある。というわけで、今はその結婚式の準備に追われていた。
それでも双方の国の侍従長が専門チームを編成し、動いてくれている。これには大いに助かっていた。しかも私は王女であり、団長リヴィとして戦場に出る前は、王族として必要な教養・マナー・ダンスは身に着けている。よって皇太子妃教育も、帝国ならではの慣習を覚えればよかったのだ。とはいえ、結婚式の準備×2、皇太子妃教育、さらに子育てと、実に忙しい!
でもこの状態で着地するまでも、とても大変だった。
ヴァルドの父親である皇帝とは、フロストの魔術で転移した二日後に、謁見しているが……。これはもう緊張。かつて戦争をしていた相手なのだ。それに私がマリアーレ王国のリヴィ団長であったこと。これは公にされてはいないが、皇帝の耳には入っている。ガタブルでの対面だったが……。
「そなたがマリアーレ王国の深窓の令嬢ならぬ、深窓の王女と言われたミア・ソフィア・マリアーレか。確かに美しいのう。ヴァルドが一目で恋に落ちたのも……よく分かる」
皇帝は銀髪にアイリス色の瞳で、年齢より若く見える。持病で苦しんでいたというが、その治療も済んだようで、元気そうだった。ロイヤルパープルの毛皮のマントも、実によく似合っている。
「父上。わたしはミアの内面の美しさに、まず惹かれたのです。そんな『見た目で選んだ』というような言い方は、しないでいただきたい!」
「まあまあ、それよりも。孫を抱かせてくれ」
その瞬間から皇帝は、ただのお祖父ちゃん状態だ。フロストを抱き上げ、金髪にアイリス色の瞳というその姿に「皇族の瞳を持つ、ブロンドの赤ん坊を抱くことになるとは」と、実に感慨深げにしている。
さらにフロストに魔術をリクエストし、謁見の間の絨毯が水浸しになったが、皇帝は大喜び。ちなみにロイヤルパープルのドレスを着た皇妃は、魔術で虹を出し、フロストを笑顔にしていた。
皇帝陛下夫妻との謁見は、こんな感じで和やかだったが……。
五つの公爵家を招いての晩餐会は緊張だった。
いろいろあり、仲が悪くなった公爵家、だがバジル公爵家は元々ヴァルド寄りだったし、イザークは息子と娘がしでかした件もある。この二人が積極的に私に話しかけたことで、残りの三つの公爵家も、次第に歩み寄ってくれた。
どの道、私が未来の皇后になることは確定している。ここで敵対するのは得策ではない――ということも分かっているようだ。それに私が嫁ぐことで、父親は小麦の帝国への輸出を認めた。林業は盛んだが、穀物が弱い帝国。この英断に帝国としては、感謝しかない。そんなこともあり、ヴァルドと対立し、かつ百年戦争もあり、私を憎んでいたであろう公爵家だったが。なんとかやっていけそうな状態になった。
帝国の方が落ち着くと、マリアーレ王国にこっそり戻ることになる。公式にするといろいろ大変なので、ひとまず非公式で戻ることにしたのだ。
それでも立襟、長袖のアイリス色のドレスときちんと正装。ヴァルドはアイスブルーのセットアップで、タイにアイリス色の宝飾品を飾っていた。フロストはアイスブルーのベビー服で、アイリス色の毛布にくるまれている。なんとなく家族カラーコーデができていた。
この親子三人で、マリアーレ王国へ向かうことになった。
馬車など使わない。ヴァルドとフロストのおかげで、転移魔術であっという間に戻ることができた。転移したのは、王宮の私の部屋だ。
「……これがミアの部屋なのか。男装をしていたし、サンレモニア村の部屋もシンプルだった。でも思いのほか……メルヘンなのだな」
これにはもう火が顔から噴き出る程、恥ずかしい。
前世ではショートヘアでボーイッシュだった。でも王女に転生できたのだ。私が何も言わなくても、天蓋付きベッドが用意され、天井には豪華なシャンデリアが吊り下げられていた。デフォルトがラブリー。ならば……と、ベッドにはウサギのぬいぐるみを並べ、壁紙とソファはローズ柄。天蓋付きベッドのカーテンは……フリル満点だった。
フロストはキャッキャッと喜んでくれているが、ヴァルドがこの部屋にいる違和感は半端ない!
「ヴァルド、フロスト、お父様に会いに行きましょう!」






















































