どうってことはない……はず?
その情報戦で使った話は……。
ヴァルドに怪我を負わせたグラス公爵家は、イザークを追い落とし、自身の家門が筆頭公爵家になろうとしている。そのため他の二つの公爵家に、自身に協力するよう呼び掛けた。するとタイム家がその話に乗った。セージ家はこの裏切りに気付き、タイム家の商会に圧力をかけている……こんな情報を流したのだ。
実際この頃、タイム家の商会は圧力を受けていた。そのせいで商売は上手くいかず、とても困っていたのだ。だが圧力をかけていたのは、私の父親。しかしタイム家はマリアーレ王国が関与しているとは夢にも思わない。そこでグラス公爵家の裏切り情報を耳にしたのだ。タイム家は商会経営が苦しいのは、セージ家の攻撃と受け止めて……。
ヴァルド不在の中、四つの公爵家は、不穏な状況に陥る。そして疑心暗鬼となり、潰し合いになっていく。
一方のヴァルドは、サンレモニアの村へやってきた。
療養をしつつ、念願の息子に会うことができ、感無量。四つの公爵家が自滅していく様子は、日々の報告で受けている。残りはイザークだけとなった時、ヴァルドはそこで初めて、私やフロストの存在を明かすことになった。
無論、私やフロストの名は出していない。ただ、既につがい婚姻をしており、子供が誕生したこと。そしてその子供は強い魔力を持つことを、イザークに伝えたのだ。
だがイザークは「本当に子供が強い魔力を持つのか、証明してみろ」とヴァルドの言葉を信じない。それどころか「勝手につがい婚姻を行った上に、子供をもうけるなんて。反逆罪だ!」とヴァルドを非難。そしてあの大広間――白鳥の間での戦闘につながっていた。
「では殿下は」「ミア」
ヴァルドが私の唇をそっと押さえた。
ドキドキしながらその瞳を見ると、彼はこんなことを言う。
「もう、その呼び方ではなく、ヴァルドと呼んで欲しい」「!」
急にそんなことを言われても……と思うが、心の中ではいつも、ヴァルドと呼んでいたのだ。呼べないことは……ないはず。
そこでドキドキしながら、その名を呼ぶことになる。
「ヴァルド」
「何だ、ミア」
ヴァルドが優しく尋ねるので、もう鼓動が早くなり、声が震えそうになる。
「あ、あの、ヴァルドはフロストに、呪文を教えたのですか?」
するとヴァルドは申し訳なさそうに瞳を伏せる。
「……そうだな。勝手にすまなかった。わたしがフロストをあやしている時、ふとどれぐらいの魔力を持つのかが気になってしまい……。そこでいくつかの呪文を教えてみた。最初の呪文を教えた時は、まだ言葉もほとんど話せない時だった。教えても発動できないと思っていた」
「教えても使えない……それはフロストがまだ言葉を話せないからですね」
「それも勿論そうだ。だがもう一つ。そもそも魔術を行使する時、呪文を詠唱しているだろう? だが呪文で魔術を発動しているわけではないんだ。呪文を唱える理由。それは一点に魔力を集中させるためだ。しかし赤ん坊では、その調整ができないと思った。よってなんとか呪文を唱えても、それはただ言葉として発せられ、終わるかと思ったが……」
そこでヴァルドが私の頬にキスをして、耳元でこんなことを囁く。
「つがい婚姻で結ばれた二人が、体を重ねている時。愛情が強ければ強い程、相手のその身に、魔力がこもった子種を注ぐことができるそうだ。わたしは元々ミアが好きだったから……。あの晩、何度もミアと体を重ねた。多くの魔力が込められた子種を、ミアの中に注ぐことができたのだろう。その結果がフロストだ。赤ん坊で魔術を発動できたなんて。聞いたことがなかった」
これにはもう、あの夜を思い出してしまい、カーッと頭の天辺から足の先まで赤くなった気がする。
ヴァルドはクールなイメージだったのに。こんなことを言うとは思わなかった!
とても恥ずかしいが、あの夜の私は魅了魔術にかかり、今では口に出せないような言葉も言っていたと思う。それに比べたら、今のヴァルドの言葉なんて……。
どうってことはない……はず?
「そうだ。つがい婚姻の“神の縛り”の共鳴だが、あれは感情が伝わるだけではない」
私は恥ずかしくて、ヴァルドの胸に顔を隠すように、身を寄せていた。だが今の一言に、さらにドクンと心臓が大きく反応している。
「できる――と知らなければできない。だができると知ったら、できるようになる。つがい婚姻で結ばれた相手、そしてその子供。お互いの夢の中に、意識を飛ばすことができる」
え……。
「私はどうしてもミアに逢いたくなり、何度か夢で逢いに行ったことがある。今日もそうだ。ミアとフロストに危機が迫っていると感じたが、会いに行けない。イザークとの戦闘中だったから。それでもどうしても二人を助けたいと思った。そこであの時、一瞬意識を飛ばした。そして夢を通じ、ミアに危機を伝えた」
意識を飛ばすということは、意識を失うことだ。
ヴァルドは防御魔術を展開の上、ほんのわずかな時間、意識を失った。それをイザークが見逃すわけがない。
一度攻撃をまともにくらい、怪我を負うことになった。フロストの魔術で転移した私が見た、大理石の床に広がる血。それはその時、ヴァルドが怪我をして流れた血だったのだ。
ただ、すぐにポーションを飲み、怪我は回復している。よって戦闘は続行となっていたのだ。
もしもあの時、私が眠りこけていたら……。
あっさり帝国にさらわれていただろう。
よって夢の中にヴァルドが現れ、起こしてくれたこと。これは大正解だった。そうしてくれて、本当に助かった。
とはいえその代償で、ポーションで既に癒えているとはいえ、ヴァルドが怪我を負ったことは……。
心底申し訳なく思う。
というか、その時以前の夢。
私は夢の中でヴァルドとキスをしたり、それ以上のこともした記憶がある。
「あくまで意識での交流に過ぎない。でも夢で逢った時のミアは、とても素直に自身の気持ちを伝えてくれて……」
ヴァルドはあの時を思い出させる言葉を紡ぐ。
もう羞恥で、全身から炎が噴き出そうだった。
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