我慢の時
ヴァルドが私の父親を説得し、捜索を止めさせていたことを知り、ビックリしてしまった。しかも父親は快諾し、ヴァルドの味方になったという。
つまりイザーク達反対派の公爵家がヴァルドの足を引っ張れないよう、水面下でサポートしていたのだ。例えばそれは、それぞれの公爵家が持つ商会にダメージを与え、資金的に困難な状態を与えるなどだ。
「本当はすぐにでも、全てをミアに打ち明けたいと思っていた。だがイザーク達四つの家門の公爵家と対立することになり、そこでミアの存在が分かれば……。必ずや狙われてしまう。安易にわたしがミアの元へ行くわけにいかない。でもやがて知ることになった。ミアが子供を身籠っていることを。嬉しかった。すぐに会いたくなっていた。だが、それならなおさらだった。子供がいるとなれば、人質としては最高になる。本当にわたしにとっては、我慢の時間だった」
そこでヴァルドはアイリス色の瞳を輝かせ、私を見ると、額へ優しくキスをした。
これはもう嬉しくて、涙が出そうになる。
「妊娠している時、出産の時。そばにいて支えることができず、すまなかった。できる限りのことをと思い、目立たない範囲で人を送り、サポートに努めた。そしてミアに会えなかった分。イザーク達四つの家門の公爵家との対立を終わらせるため、力を尽くすことにした」
「殿下は皇太子という立場なのです。例え一緒に暮らしていたとしても、毎日つきっきりなんて、できなかったはず。あの村に医師と助産婦が常駐し、メイドがついてくれた。それだけでも十分なサポートです。ありがとうございました」
そう言ってヴァルドに、ぎゅっと抱きつく。
私の気持ちに応えるように、ヴァルドも私を強く抱きしめてくれる。
「公になっていない内紛だ。外交をしつつ、水面下で戦うという、実に心身が休まらない日々だった。それでも感じていた。ミアの中で育まれるフロストの命を。つがい婚姻ゆえの絆のおかげで、二人が安全であることを感じ、それに癒されることになった」
「殿下のお父様……皇帝は助けてはくれなかったのですか? 婚姻の慣習を変えることに、やはり反対だったのですか?」
するとヴァルドは、フッと口元に笑みを浮かべる。
「父親である皇帝は、未来の後継者のお手並み拝見とばかりに静観だ。でもこれは悪い兆しではない。反対はしていない。よってわたしがイザーク達四つの家門の公爵家を抑えることができれば、婚姻の慣習を変えても構わないということだった。そこは俄然、頑張ることになった」
ヴァルドは、イザーク達四つの家門の公爵家の結束を壊す作戦に出た。
「イザークの妹デボラとの婚約の話が浮上し、奴はその話を強引に進めようとしている。それを利用することにした」
「つまり内紛に乗じ、他の公爵家を出し抜き、自身の娘を皇太子妃に推していると思わせたのですか?」
「その通りだ。元々四つの公爵家は、仲が良かったわけではない。お互いライバルであり、腹の探り合いだ。ゆえに簡単に疑心暗鬼になってくれた。そこで運よく、グラス公爵家の刺客による攻撃を受け、わたしは怪我を負うことになったが……。これはわたしにとって、願ったり、叶ったりだった」
この怪我を理由にヴァルドは、父親である皇帝に療養を申し出る。表向きは。裏ではちゃんと四つの公爵家を抑えるため、一時的に身を潜ませることを申告している。
その結果、ヴァルドはキリーマン公国のいずれかの都市で療養していると、皇帝から発表された。つまり帝国内にヴァルドはいない。実際、彼の部下の半分が、キリーマン公国に向かった。だがそれはカカオ豆の交易交渉のためだった。しかし四つの公爵家は、ヴァルドが本当に療養へ向かったと信じた。
そこでヴァルドはいろいろ仕掛ける。仕掛けると言っても、物理的な攻撃ではない。情報戦を始めたのだ。






















































