私は真っ赤なトマト状態
ヴァルドは、アイリス色の瞳を恥ずかしそうに伏せた。
「ニージェ達が男装し、剣を振るった時の動き。男性よりどうしても腕力が劣るゆえ、女騎士の剣筋には癖があることに気づけた。だが確信はない。いつだってミアは、完璧にリヴィ団長を演じていたから」
そこでヴァルドは改めて私を見て尋ねる。
「ミアは『フロストの父親のこと、愛しています……』と言っていた。それはわたしを好きだと、理解していいのか?」
これにはもう瞬時に全身が熱くなり、顔は真っ赤だと思う。耳だって熱い。
「それは……そうです。しかし私は、魅了魔術のせいとはいえ、あんなヒドイことを」
「ミア。わたしは君が考えるより、魔力は強く、魔術だって強力だ。他人の魔術を解除するのは、簡単なことではない。だがわたしであれば、確かに強力な魔術ではあったが、解除できた」
「え!?」
「魅了魔術にかかったミアに襲われるのは……嫌じゃなかった」
これには衝撃的過ぎて、言葉が出ない。
自身と私にかけられた魔術を解除できたのに、それをせずに……。
「それにヒドイと言うなら、それはわたしだろう。わたしは……見てしまったんだ、ミア」
なんのことか分からずキョトンとすると、ヴァルドが頬を赤くする。
端正な顔立ちが照れる様子は……眼福だった。
だが、それはこの時までのこと。
なぜなら……。
「獣を倒したミアは……リヴィ団長は、血を浴びていた。それを洗い流すため、泉に入っただろう?」
「ま、まさか……」
「わざとではない。偶然だった。あの近くにたまたまわたしもいて……。すぐにミアだと気づき、部下には全員、撤収を命じた。でも見てしまった」
そこでヴァルドの瞳は輝くが、私は悲鳴を堪えている。
まさか見られていてなんて!と。
またもや私は真っ赤なトマト状態だ。
「あの時は驚いた。まるで女神が泉に降臨したのかと思った。同時に。リヴィ団長が女性に見えてしまう自分は、間違っていなかったと安堵した。そして決意することになった。その姿を見てしまったのだ。一国の王女の裸体を見るなど、許されることではない。責任をとろうと思った」
つまり私との結婚を、この時に決意したということ!?
「裸体を見たことの責任……は口実でもある。既に男装していたミアが女性に見えてしまい、好意を持っていたのは事実だから。それに――」
そう告げるヴァルドからアイリス色の瞳を向けられると、心臓のドキドキが止まらない。
「イザークに話した通り、皇族と五つの公爵家の婚姻では、もう魔力の強化は望めない。そのことにわたしは気づいていた。ゆえにこの婚姻の慣習を変えようと思っていた矢先でもあった」
ヴァルドは自身の父親である皇帝を始め、五つの公爵家に対し、提案をしていた。婚姻について見直すことを。つがい婚姻自体は変えられない。だが皇族の結婚相手を五つの公爵家に限るのは、変更してはどうかと、提案したのだ。
すると五つの公爵家のうち、バジル家は、ヴァルドに同意してくれた。その公爵家はどうも男系の一族のようで、娘になかなか恵まれず、皇妃を輩出できずにいたのだ。だが残りの公爵家は、イザークを筆頭に、ヴァルドと対立するようになる。そしてヴァルドは勿論、バジル家にも攻撃を仕掛けるようになったのだ。つまりは内紛状態。でもそんなこと、他国に明かすことはできない。
だが、ヴァルドは平和条約締結記念舞踏会に参加し、そこで私の父親にこう言ったのだ。
――「わたしはミア・ソフィア・マリアーレ王女と、既につがい婚姻を済ませています。彼女を皇太子妃に迎え、ゆくゆくは皇后になって欲しいと思っているのです。彼女のことを愛しています」
これを聞いた父親は、もう大喜びだったという。
それはそうだと思った。
なぜならスパイを送ることを、ヴァルドが認めたようなものなのだから。
しかし次の一言で私の父親はその考えを改めることになったはず。
なぜなら……。
――「マリアーレ王国は、必然的に帝国にとって、一番の友好国になるのです。ですからもう策を弄する必要はありません。ただ、他国の王女を皇太子妃に迎えることに反対している一派がいます。彼らを制圧し、王女を迎えるまで。この件は秘密にしてください。王女は、わたしが匿っているので、追跡は不要です。公には、彼女は体調が悪く、王宮に籠っていることにしてください。帝国内の反対派を説得できたら、公式に婚姻の件を発表しましょう」






















































