恥ずかしそうに
「……王城から逃げることにしたのでは?」
まさにその通りだったので頷くと、ヴァルドは私の髪をひとふさ手に取り、キスを落とす。
「首につけていたペンダント。あれに魅了魔術がかけられているなんて、知らなかったのだろう? 男装していたなら、咄嗟に誰かに襲われた時、幻覚魔術、服従魔術が発動する。そんな魔術が込められたペンダントをつけたつもりでいた。だが実際は違う。わたしは一目見て、おかしな魔術が使われていると気づいた。だがあの時、ミアは呪文を唱えてしまったから……」
「本当にごめんなさい。まさかあんな」「マクシミリ国王は」
私の言葉に被せるように、ヴァルドが口を開く。
「マクシミリ国王は、本来、逆で発動させるつもりだった。つまりミアは身動きがとれず、わたしが魅了魔術にかかる。男性であるわたしがミアを襲ったとなれば、皆、同情するだろう。責任をとれとなる。しかもつがい婚姻の縛りも発動するから、わたしはミアを皇太子妃に迎えるしかなくなるわけだ。これでマクシミリ国王は、帝国の中枢部にスパイを送り込める。だがそれはミアの意思を無視した、非情な作戦だと思う」
自分の父親ながら、そこは……ひどいな、と思う。
ただ一国の主として、自国の立場強化を思ってとった行動。王族に生まれたからには、政略結婚とは無縁ではいられない。多少強引であったとしても。これまた政略結婚の一つだったのだろう、父親からすれば。
最近はもう、前世の記憶を思い出すことも減っている。それでも前世の世界でも、昔は王侯貴族の娘は利用されていた。婚約と破棄を繰り返したり、何度も離婚と婚姻を繰り返させられることもあったのだ。
「ミアは魅了魔術がかけられているとは知らず、そのペンダントをつけたまま、王城からの逃亡を開始した。向かう先は……すぐに追っ手がかからないよう、カモフラージュもしたことだろう。だがあの宿場町に現れたということは……目指すはサンレモニアの村。マリアーレ王国側から向かわなかったのは、森の入口に、マリアーレクラウン騎士団がいたからだ。あの宿場町を経由し、帝国側から森へ入り、サンレモニアの村を目指したのでは?」
「どうしてマリアーレクラウン騎士団がいたことを……?」
「帝国でも、サンレモニアの森に入った避難民の捜索をしていた」
「そうなのですか!? 一度も森の中で遭遇しませんでしたが」
するとヴァルドはフッと笑う。
「百年戦争は終結したばかりだ。森で遭遇すると緊張が走るだろう? ゆえに兵や騎士には少人数で動くように命じ、遭遇しないよう、気を配らせた」
「え、では殿下自らが指揮を執っていたのですか?」
「そうだ。あの宿場町には、ミアに会う一週間前から滞在していた。その間は私が指揮を執っていた。それも平和条約締結記念舞踏会に出席するまでのことだが」
完全に気づいていなかった。
私は剣聖とは呼ばれたものの。
そう言った配慮は、皇太子教育を受けているヴァルドには敵わない。
「結局、殿下は私の目指す場所はお見通しだったわけですね。後は部下に私の後を追わせるというより、サンレモニアの村へ向かったか、確認をとればよかった。しかも村には既にソルレンがいる。いつでも私を捕まえることができたわけですね」
するとヴァルドが私の頬を自身の手で包み、ため息をつく。
「ミア。わたしは君を捕らえるなんてこと、するつもりはなかった。さっき伝えた通り。わたしは君のことが好きだった」
いきなりのストレートな告白に、ドキッと心臓が反応してしまう。
「戦場でリヴィ団長と剣を交えているうちに、好敵手と思うようになった。敵ながらあっぱれと、強い関心を持つようになる。剣での戦いに勝ちたいと思い、リヴィ団長について調べ、観察していると……。なんというか……リヴィ団長が男装している女性に見えてしまい……。自分が何かおかしくなったのか。それを確認したいと思い、ニージェら三人の女騎士を、育成することにした」
これにはビックリで、思わずヴァルドの顔をガン見してしまった。するとヴァルドは、アイリス色の瞳を恥ずかしそうに伏せた。






















































