いつから
「ミアの正体を知らないとはいえ、攫おうとしたイザークの息子と娘も、許すわけにはいかない。そもそも人攫いを、公爵家の人間がするなど言語道断。それでもイザークの息子は、嫡男だ。本当は幽閉し、一生塔に籠らせたいと思ったが……。イザーク自らが、息子をカリファ島に、五年間遊学させると言った」
「カリファ島……サボテンしか生えておらず、巨大なトカゲが島の住人。人間は住んでいませんよね? そこへ遊学? サバイバルをしに行くのではなく……?」
「イザークは遊学、と言っていた。だが命がけの五年間になるだろう。ただ魔術の腕は上がるはずだ。何せ生き延びるために必死だろうからな」
一生幽閉より、必死の五年間で許して欲しいということね。
なんだか五年後、ターザンみたいになって帰還しそうだわ。
「娘の方は、キリーマン公国に嫁がせることにした。丁度カカオ豆の交易交渉をしている。独占契約の対価で、魔力持ちの公爵家の令嬢を嫁にもらえるとなれば、公国も大喜びだろう。イザークは、自身の失態もある。泣く泣く呑んだ。だが未来の皇妃と皇太子を攫おうとした。しかも公爵家の人間が。これで済んだのは奇跡ではないか」
未来の皇妃と皇太子という言葉で、私の心臓は大きく跳ね上がる。
そうだ、その件も聞かないといけない!
「ちなみに気づいていないだろうから、教えよう。医師も助産婦もわたしが送り込んだ。ミアがサンレモニアの村で、無事に出産できるようにするために」
これはもうダブルパンチ!
まさか医師と助産婦も、ヴァルドの息がかかっていたなんて!
しかも私が無事出産できるようって……つまり、その時から私がサンレモニアの村にいたことを知っていたのね……。そして新しい命を宿していたことも。その命が自分の子供であることも。
「殿下、あなたは……いつから私が村にいることを知っていたのですか?」
「いい質問だ。遡って話そう」
そう言うとヴァルドは長い脚を組み、自然と私の肩を抱き寄せた。とても自然に。だから私もされるがままになっていた。
「あの日、ミアはマリアーレ王国のミア・ソフィア・マリアーレを示す紋章がついた短剣を残し、わたしの元から去った。自身の身を明かさず、立ち去ることもできただろうに、あえて明かした。そこでわたしは理解することになった」
いきなり核心部からの話なので、心臓がバクバクしてきた。
「マリアーレクラウン騎士団を率いたリヴィ団長の正体が、男装したマリアーレ王国の第一王女であったことを。さらに魅了魔術にかかり、起こした行動。それは自身の意思とは反したものだったことも、伝わってきた。わたしに対し、申し訳ない気持ちでいっぱいであることも含めて。それに身分を明かしたのだ。それだけの決意と詫びる気持ちがあったと、きちんと理解できた」
そこでヴァルドがぎゅっと私を抱き寄せた。
「そこまで健気に詫びる気持ちでいっぱいの人間を殺す? できるわけがない」
間髪をいれず、ヴァルドは話を続ける。
「すぐにミアを追いたいと思ったが、私は平和条約締結記念舞踏会に出席しなければならない。そこで部下に追わせることにした。ミアがどこに向かうか。考えるまでもなかった。そもそもなぜあの宿場町で会うことになったのか。そこから逆算して考えて行けば、答えは導き出すことができた」
さすがヴァルド。
私が残した護身剣ひとつでここまで答えを導き出すなんて……。
そこでヴァルドは、彼の腕に身を預ける私の頭を、優しく撫でる。
「まず、戦場であれだけ剣を交え、お互いに好敵手と認めあっていた。それなのにミアが、自ら魅了魔術を使い、何かするわけがない――その前提がわたしの中であった。そしてペンダントに魅了魔術がかかっていることも、それがどのように発動するかも、ミアが分かっていなかったこと。さらには宿場町にミアがいたことから、一つの仮説を考えた」
ヴァルドは大きく息をはいて、その仮説を私に明かす。
「マクシミリ国王は、帝国との百年戦争が終結したのに、その結果に満足していなかった。もっと自国が優位に立ちたいと考えた。そこで年齢的にピッタリなミアを、未来の皇后として送り込むことを考えたが……。帝国ではつがい婚姻がある。そこで平和条約締結記念舞踏会にわたしが出席すると知り、ミアに命じたのではないか? わたしの閨を襲えと。でもミアはわたしと同じ。わたしを宿敵であるが、好敵手と認めていた。よってそんなことをできないと、王城から逃げることにしたのでは?」






















































