一体どんな表情で、顔を合わせればいいのか
「ではこちらでお待ちください。間もなく殿下がいらっしゃいます」
完全にフリーズしてしまった私は、あの大広間――白鳥の間から、ヴァルドが呼んだ侍女たちに案内されるまま、別室へ移動していた。通されたのは、サンレモニアの村で住んでいた家の、全部屋を合わせたような広々とした部屋だ。
そこで身支度を整え、久々にきちんとしたドレスを着せてもらった。
アイスブルーのシルクのドレスには、星の砂のようにグリッターが散りばめられている。重ねられているチュールは、光沢と透け感があり、動く度にニュアンスを与えてくれた。宝飾品は、プラチナを土台にアイリス色の宝石が埋め込まれており、華やかで美しい。
改めて姿見に映る私は……。
十九歳での出産だった。加えて比較的早い段階で、戦士の役割に復職している。日々、体を鍛えたおかげで、体型の崩れもなかった。おそらく子供が一人いると言っても、驚かれるだろう。
暖炉から適切な距離をとった場所に置かれたベビーベッドを見ると、フロストが気持ちよさそうに寝かされている。とてもあんな魔術を使ったとは思えなかった。
ひとまずソファに座り、ぐるりと部屋を見渡す。
ウォークインクローゼットにつながる扉が見え、その横には本棚が並び、文机と椅子が置かれている。ソファのそばには暖炉があり、炎が赤々と燃えていた。
既に濃紺のカーテンは閉じられており、日が暮れているようだ。
煌々とシャンデリアの明かりが灯り、壁に掛かった巨大な絵画、ローテーブルに置かれた美しい薔薇の花を照らしている。ソファは白い生地に青い薔薇が散らされたデザインで、絨毯はカーテンと同じ濃紺だった。
さて、と思う。
思考停止していたが、そろそろ脳を働かせた方が良さそうだ。
驚愕していいと思うのだけど、ヴァルドは……私の正体に気づいていた。気づいたタイミングはいつだったのか。それは分からない。だが少なくとも今日、再会した時点では、私がマリアーレ王国の王女ということを把握していた。
さらに。
ヴァルドは、帝国の筆頭公爵家の嫡男イザーク・ラインの妹デボラとの婚約の話が出ていたようだ。しかしそれは、私がヴァルドの純潔を奪うことで、立ち消えになっていた。兄であるイザークは、敵国の王女を皇太子妃に迎えることに、強く反対していたようだ。ところがフロストが魔術を行使するのを見て、その威力を体感、考えを改めてくれた。
私をヴァルドの皇太子妃と認めると言ってくれたのだ。
何よりもヴァルドは、どうも私のことを、以前から好きだったように思えた。ヴァルド本人も「頑固と言われるのは心外だ。一途、と言って欲しい」と言っていたのだから。
この事実には、じわじわと喜びがこみ上げる。
てっきり再会したら、殺されると思っていたのに。
どうもそれはないようだ。
ひとしきり歓喜に心が沸いた後。
深呼吸して気持ちを静める。
私を好き。
これは一体全体、どういうことなのかしら?
私が王女としてヴァルドに会ったのは、彼の純潔を奪う時だ。
それ以前は、マリアーレクラウン騎士団の団長リヴィとして、ヴァルドに会っていた。ヴァルドは深窓の令嬢として知られるミアのことを噂で聞き、恋をしていたのだろうか?
でもイザークはヴァルドのことを「恋など興味なし、戦場で生きるのが自分の使命なんて言っていた奴が。本当につがい婚姻をしているなんて」と評していた。そうなると、噂で知った王女ミアのことが好きだったというのは……当てはまらない気もした。
いろいろ分からないことばかりであるし、それに家にやってきた魔術を使える令息と令嬢は何だったのか。そちらも気になる。あの二人は帝国の人間なのか、それとも他国の人間なのか……。
これからヴァルドが部屋に来るなら、聞きたいことは山ほどあるが……。
私をどうやら好きだというヴァルド。
一体どんな表情で、顔を合わせればいいのか……!
てっきり再会したら、激高されると思っていたのに。
……もしかして私が逃げ出さないよう、殺意を隠している可能性も……いまだ捨てきれない。
そこで聞こえた扉のノック音に、ソファから飛び上がってしまう。






















































