石頭万歳
階段から足音が聞こえた。
私に魔術を行使した男女がフロストを連れ、降りて来たに違いなかった。
フロストのことは、女性が抱いている可能性が高い。
男性の方は、私を運ぶつもりだろう。
そうなると男性を先頭に、階段から降りてきている。
男性を倒そう。
手と足で剣の位置を確認した。
あった!
背中で構えていたのだ。
その状態で、魔術で眠らされ、私は倒れた。
大丈夫。
すぐに剣は拾える。まずは男を倒す。女は……運が良ければ倒せる。
ううん。倒す。なんとしても。
でも今はまだ、眠っているフリだ。
「この子供も連れて行く意味があるの?」
「髪色からすると、女の子供だろう? 追加で金を要求できるかもしれない」
「どうかしらね。昔は羽振りが良かったみたいだけど。もうスカスカじゃないかしら?」
「そうなったらこの赤ん坊を売ればいい」
フロストのことを売る……?
頭に血が昇りそうになるが、グッと堪えた。
今は冷静になる必要がある。
一旦、怒りにつながることを考えるのはストップだ。
代わりに目を開けられないので、声から犯人像を想定する。
声からすると、まだ若い。
十代ぐらいでは……?
魔術を使える十代の男女……。
皇族ではないと思う。そうなると帝国の五つの公爵家のいずれかの令嬢と令息では?
もしくは他国の魔術を使える人間の可能性もある。
帝国の人間に攫われるとしたら、それはヴァルドの指示だと思う。
でもヴァルドではないと思うのは、夢の中で彼を見たから?
それだけではない。
ヴァルドだったら人を使わず、きっと自身が動く。
他国ならどうして……。
偶然、マリアーレ王国の王女がここにいると知った。
連れさらい、父親である国王に、取引を持ち掛けるつもり……?
「!」
細く開けた瞳に、男が履いている黒革の靴が見えた。
重要なのはタイミングだ。
男が屈み、私を持ち上げようとしたその時……。
今だ!
これはもう頭突きで男のアッパーを狙った。
ヒットした瞬間。
私の頭も激痛で、クラッとしたが、石頭万歳だ。
鈍い音がして男が倒れ、女が悲鳴を上げる。そこですかさず剣を掴み、低い位置で斬り込む。手応えはあった。ドレスのスカートが裂け、足にヒットしている。女が再び悲鳴を上げ――。
「フロスト!」
女が放り投げたフロストをキャッチする。
「この女! Addor……」
また、魔術を行使される!
そう思ったが。
「congelo」
え……?
目の前の女が瞬時に凍り付く。
氷の塊に全身が閉じ込められた状態だ。
「フロスト、あなた……まさか、魔術を使えるの?」
白いベビー服姿のフロストは、ニコリと笑う。
「パァパ!」
!? まさかヴァルドが教えた? そんなわけないわ。
ソルレンね。
そうよ、きっと。ソルレンはフロストが皇族の血を引くと知っていたから、試しで呪文を覚えさせたのだわ。まさか本当に魔術を使えるとは……思っていなかったのかもしれない。
「マァマ、パァパ、ピンチ!」
「!?」
フロストは再び呪文を唱え、気絶している男も氷漬けにしてしまう。
さらに!
足元に広がる幾何学模様、これは……魔術陣!
淡いアイリス色の輝きが魔術陣から発せられたと思った次の瞬間。
フロストが転移の呪文を唱えた。
「Ad locum patris metastasis」。
「!」






















































