想像すると……
ソルレンが安心し、ニージェとデートできるよう、ちゃんと問題がないことを伝えないと!
「この家の周囲には、ヴァルド皇太子殿下がかけてくれた魔術が有効です。ソルレンと私の剣はひっかかりません。ですがそうではない武器を携帯し、この家の敷地内に入るのは……恐らく無理です。丸腰ではないと、踏み入ることはできません。ですから平気ですよ。殿下を信じるなら、カーニバル、行っても大丈夫ですよね?」
アイリス色のワンピースを着た私が畳みかけると、ソルレンは口をへの字にしている。
「それは……そうですね。殿下の魔術は絶対ですから……。では少しだけ、行ってきます。フロストはお留守番でいいのですか?」
「留守番でいいわ。昨日も一昨日も行っているし、大丈夫」
こうしてソルレンとニージェを送り出し、私は一階のリビングルームで編み物をしていた。ベビーベッドでは、フロストがすやすやと眠っている。暖炉の薪が時々、バチッと爆ぜた。置時計がカチ、カチ、カチと時を刻む。遠くでカーニバルの音楽が聞こえてくる。
こんな風にゆったり時間を過ごす時。
そばにヴァルドがいてくれたら……。
私が編み物をする横で、ヴァルドは紅茶を飲みながら本を読んでいる。
フロストが声をあげると、すぐに立ち上がり、ベビーベッドへ向かう。フロストとヴァルド。共にサラサラの髪で、瞳は皇族特有のアイリス色。二人でその瞳を細め、笑っている。
想像すると、思わず笑みがこぼれそうになった。
そこで玄関の扉をノックする音が聞こえた。
これには驚き、ソファから体が浮き上がった。
村人は今、カーニバルに夢中になっているはず。誰かが訪問するような理由も思いつけない。ただ、怪しい者が訪問したのだとしても、武器は携帯していないはずだ。ヴァルドの魔術がそれを許さない。
大丈夫。
落ち着いて行動しよう。
フロストを二階のベビーベッドへ移し、すばやく一階に降りる。
窓から玄関を窺う。
ドレスを着てアイマスクの仮面をつけている女性とフルフェイスの仮面をつけた男性がいる。当然だが、武器を携帯している様子はない。
もしやカーニバルに来ないことを心配し、訪ねてくれたのかしら?
そんなことを思いながら、剣を背中に隠し持ち、扉へと向かう。
頭の中で素早い剣の動きをシミュレーションし、慎重に扉を開けた。
「Addormio」
◇
『ミア』
『ヴァルド!』
白シャツにアイスブルーのズボン姿のヴァルドが、私のことをぎゅっと抱きしめた。
『君は今、魔術で眠らされている。フロストが危ない。目覚めるんだ』
『!?』
驚く私にヴァルドが繰り返す。
『これは夢だ。ミア、君はきっと不意打ちをくらったんだ。わたしと剣を交える時は、魔術に備え、回避できた。でもさすがに警戒していない時、魔術を避けるのは難しい。よって魔術をかけられたことを悔いる必要はない。ただ、君の異変に気づいたフロストが泣き声をあげ、敵はその存在に気が付いてしまった。彼らはフロストを利用するはずだ。フロストを人質に取られたら、君が服従するだろうと考えて』
『そんな……! そんなひどいこと、絶対にさせません。でもどうやって目覚めればいいのでしょうか? 魔術は一度発動してすぐに効果が消えるものと、一定時間、持続するものがありますよね?』
『その通りだ。だが、今かかっているのは単純に眠っているだけの魔術だ。外的な刺激、この夢の中でドキッとするようなことがあれば、目覚められる』
そこで考える。
フロストが泣いているなら、その声で目覚めることができないのかと。
『泣き声が聞こえたのは、少し前までだ。今はフロストもまた、眠らされているのだろう』
そうなると外的な刺激で目覚めるのは……。
無理に思えた。
それはヴァルドもすぐ気づいたようだ。
『……仕方ない。これは緊急事態だ。こんなことをしている場合ではないと思う。だが目覚めるためだ』
そう言うな否やヴァルドの唇が、私の唇に重なる。
しかもグイッと腰を抱き寄せられたのだから、当然、心臓がドキッと飛び上がった。
ピクッと自分の手が動いたことが感じられる。
そこで『目覚めろ、自分!』と念じることで、覚醒できた。
夢なのに、なんてリアリティ!
夢の中のヴァルドは、私が生み出したもの。だがアドバイスといい、状況把握といい、完璧だった。私自身は瞬時に魔術で眠らされ、何が起きたか分かっていないはずなのに。でも実際、私は玄関で倒れている。そして今、目覚めたわけだ。
つまり夢の中のヴァルドが言っていたこと。
それは正しかった。
「!」
階段から足音が聞こえる。
私に魔術を行使した男女が、きっとフロストを連れ、降りて来たに違いない!






















































