その気持ちを
ヴァルドが私に切なそうな眼差しを向けたので、もう心臓がバクバクしている。こんな瞳をしていたら、きっとあの言葉が出ると思った。
その視線を避けるよう、私はテーブルを眺めてしまう。
「ニューイヤーも無事、迎えることができた。……ミアやフロスト、みんなと過ごせ、良かったと思う。ありがとう」
ハッとして顔をあげると、ヴァルドは席を立とうとしていた。
「疲れているところ、時間を取らせてしまい、すまなかった。もう休もう」
ヴァルドの瞳に、さっき感じた切なさはもうない。
私が視線を避けたから、自分の気持ちを呑み込んだ……。
このまま未完で終われば、ヴァルドはずっとこの時のことを、忘れられないのでは?
「あ、あの……どうしてこの話を、私にだけしたのですか?」
ヴァルドは「!」という表情で、言葉を発することができない。
「ニージェはメイドという立場でここにいます。ですから彼女には……後日でもいいでしょう。でもソルレンには聞かせてもよかったのではないですか?」
「ミア……君は……。そうだな。その通りだ。どうして……いや。話すと長くなる。手短に済ますと言ったのだから」「いいですよ」
驚く顔のヴァルドを見て、しみじみ思う。
彼から逃げてこの村に来た時。
夢の中のヴァルドは優しいが、実際のヴァルドは、絶対に怖い顔で私を見ると思っていた。でも正体がバレていないというのもある。だが戦場ではない場所で会う彼は、こんなにも人間味があり、普通だった。怖くなんて……なかった。
「話してください」
「……疲れているのでは?」
「何を言おうとしているのか。気になって眠れませんよ」
立ち上がりかけていたヴァルドは椅子に座り直し、「そう長くはならない」と言い置いて、こんなことを言い出した。
「……わたしにもミアのようにライバル……とわたしが勝手に思っている相手がいた。わたしは魔術を使えるが、相手は使えない。それなのに魔術をもろともせず、向かってくる相手だった。何度か魔術を使い、その相手との戦闘を終わらせようとも考えた」
……! これにはドキッとしてしまう。
だってこれは……私のこと、リヴィ団長のことだと思うのだ。
「だが魔術で勝つことは、邪道に思えたんだ。わたしは魔術を使えるが、騎士でもある。魔術を使えない相手と戦った時、魔術で勝つのはフェアには思えなかった。勝つなら剣で。剣には多少のギミックで魔術を使った。それでも相手は食らいついて来る。驚き、とても楽しかった。こんなにわたしを楽しませてくれる相手は、彼女しかいないと思った」
そこでふわっとヴァルドは笑顔になる。
「結局、勝敗はついていない。百年戦争。この終結と共に、彼女との勝負は終わりを告げた」
「……機会があればその彼女とまた、剣を交えたいと思うのですか?」
「どうだろう。もう平和な世になったんだ。敢えて勝負をつけなくてもと思う。……今度こそ良きライバルとして、互いの剣術を磨き合えればいいかと」
まさかヴァルドがそんな風に考えていたなんて。
驚き、でも高潔な精神を持つヴァルドらしいとも思えた。
「ミア。これは偶然だろうと思う。でも君は……彼女と名前が一緒なんだ。名前が似ているせいか、雰囲気が彼女に似ているように思えてしまう」






















































