どうしよう……。
なんでこんなこんがらがる事態になってしまったのだろう?
ううん、落ち着こう、私。
好きだと言おうとしたとは限らない。
限らないが何かを言おうとしたことは確か。
ヴァルドは間もなく、帝国に帰るのだ。それまで二人きりになる機会を作らず、今日の続きを聞く機会を作らないようにしよう。
そう誓った私はそれからの日々、ヴァルドと二人きりにならないよう、涙ぐましい努力を続けた。不自然に見えないよう、ヴァルドが疎外感を覚えないよう、細心の注意を払って。
時々、ヴァルドが何とも言い難い表情で、私を見ることがある。
でもそれは……気づかないフリをした。
これ以上、偽りの私を好きにならないで。そう願いながら。
◇
前世の師走ではないが、ホリデーシーズンはあっという間に過ぎて行く。
ニューイヤーを迎えるその時、村の広場では、シャンパンで乾杯がある。でもこれは、出席が必須ではない。基本的にニューイヤーは大切な家族と共に過ごす。それがこの世界での基本だった。
よってヴァルド、ソルレン、ニージェ、フロスト、そして私の五人で、ニューイヤーの瞬間を静かに迎えた。フロストは一階のリビングルームのベビーベッドで眠っている。明かりを消し、ダイニングルームで乾杯だけして、部屋に戻ることになった。
フロストを抱き上げ、二階の客間を使っているソルレンと共に、部屋に戻ろうと階段を上ろうとしたところ。
ヴァルドに声をかけられた。
これにはドキッとしてしまう。
何か理由を……そうだ。
フロストを寝かせないといけないからと、言おうとすると。
「ではフロストは自分が寝かせよう」
気を利かせたソルレンが、フロストを寝かせると申し出てくれた。
これを否定する理由は……思いつかない!
ならば。
「急ぎですか? もし明朝でもいいのなら」
「時間はかからない。すぐに済ませるので」
ヴァルドは即答だったし、こう言われては、応じるしかない。
だが!
チラッと見ると、まだダイニングルームに、まだニージェがいる!
「分かりました。ではダイニングルームで話しましょう」
「ああ。それで構わない」
こうしてフロストはソルレンに託し、私はヴァルドとダイニングルームへ向かった。
ところが!
ニージェはマグカップを手に、自室へ引き上げようとしていた。
まずい! これでは二人きりになってしまう!
「あ、どうされましたか?」
ニージェが私とヴァルドに気付き、声をかけてくれた。
「ミアと二人で、少し話をするつもりだ」
私が答えるより先に、ヴァルドが答えてしまった。
しかもこの言い方をされたら、ニージェはすぐに自室へ引き上げてしまう……!
「そうでしたか。もし飲み物が必要でしたら声をかけてください」
「それには及ばない。もう遅い。ゆっくり休んでもらっても構わない、ありがとう」
ヴァルドの丁寧な応対に、ニージェは「ではお休みなさいませ」とお辞儀をして去っていく。
私は「しまった……!」と青ざめるが、後の祭りだ。
ひとまずダイニンテーブルの椅子に、ヴァルドも私も腰かける。
どうしよう……。
あの日の続きで、もしも気持ちを打ち明けられたら……。
「ミア」
「は、はいっ、どうしました!?」
「春を待たず、帝国へ戻る必要がある」
「……えっ」
ニューイヤーのこの時期、どこの国もお祝いムード。血生臭いことはないはずだった。でも帝国では、いろいろ何か起きているというのだ。
そもそもヴァルドがここに来たのも、そう言った一連の出来事のせいだった。それをすっかり忘れてしまっていたが。
「肩の傷は……まだ完治していないのでは?」
「……実はもう、完治と言ってもいい状態だ。この村での生活は、皇宮と比べ物にならない程、リラックスできた。普段、周囲にいる近衛騎士もいない。最初はそのことに不安を感じた。でもこの村の人間は魔術を使えない。そしてこの家の敷地には、がっちり魔術を使っている。不法侵入はできない。ここは安全だと分かった結果、熟睡できるようになり……。リフレッシュもできた。おかげで傷は、予想以上に早く癒えることになった」
ヴァルドが言わんとすることは、元王女だった私だからこそ、理解できるものだった。
王宮は安全だと分かっていても、王族である限り、暗殺の二文字は頭の片隅に常にある。特に帝国の皇族や公爵家の人間は、魔術を使えるため、私以上に暗殺を意識していたと思う。
でもここは……。
そうか。傷が早く治ったのは良かった。それは喜ぶべきこと。
「それは良かったです。これで思う存分、剣の腕もふるえますね」
「そうだな。実は二週間前から、怪我をした腕でも、剣術の練習をしていた」
「そうだったのですね……!」
「……せめてニューイヤーを迎えるまでは、ここにいたいと思い、とどまっていた。でも、頃合いだ」
そう言うとヴァルドが、私に切なそうな眼差しを向けた。






















































