こんがらがる事態
クマの穴から無事生還した後、「魔術アイテムを使った」ということにして、私とヴァルドは一足先に家に転移魔術で帰らせてもらった。フロストのことが心配だったし、トイレにも行きたかった……というのもある。それにヴァルドが怪我人であることは、周知の事実。よって駆け付けてくれたみんなも、先に帰還することに異論はなかった。
こうして家に戻ると、ニージェは用意してくれていたアツアツのシチューで迎えてくれた。聞くと、私が丁度、あの穴に落ちた時。フロストが突然泣き出し、しばらく泣き止まず、大変だったのだと言う。
「まるで母親であるミア様の危機を察知したようでしたよ」
これをニージェから聞いた時は驚いたが、フロストなら魔力もあるだろうし、何かを感じたのかもしれない。もしくは親と子の絆の力がなせる技なのかしら?
そうこうしていると、心配したミーチル村長が訪ねてきてくれた。私はまさかクマの穴に落ちるなんてと、騒動を起こしてしまったことに、平謝りだった。対して村長は……。
「水辺のそばに穴を掘って冬眠するクマは意外といるからね。落ちてクマが目覚めなくてよかったさ。何より無事でよかった。フロストから母親を奪うわけにはいかない。すまなかったね、役割が休みの日に、危険な依頼をしちまって」
逆に謝罪された上に、お詫びとして砂糖やチョコレートなど、稀少な品をもらってしまった。どれも村長が織った布を町で販売し、私的に購入したもの。申し訳ないと思いつつも。贈り物を受け取るのは、この世界のマナーでもある。ゆえにありがたくいただくことにした。
そうしているとソルレンも帰ってきて、救助に駆け付けてくれた人に御礼を言いに行き、夕食となり……。
とにかく慌ただしく時間が流れ、ようやくベッドで大の字だった。
フロストは私の無事に安心したのか、帰宅してからは大人しく休んでくれており、今もすやすや眠ってくれていた。
そこで私は今日の出来事を振り返る。
あのクマの穴で私は、ヴァルドに打ち明けていた。一夜の過ちをおかした相手から、害されるかもしれないと。それを聞いたヴァルドは、それならば自分が守ると申し出てくれたのだ。しかも私がそんな温情は受けられないと言うと……。
――「温情……。ただの温情ではない。わたしはミアのことが」
私のことが、何だと言おうとしたの?
他人事に思えない? 心配だから?
まさかとは思うけれど、私のことが好き――だったりしないわよね?
ヴァルドは、私がマリアーレクラウン騎士団を率いたリヴィ団長であり、マリアーレ王国の王女ミア・ソフィア・マリアーレだとは……思っていない。
つまり正体がバレないよう、変装した私のことを好きになったのだとしたら……。
どうしたらいいのだろう?
つがい婚姻があったとしても。
心から愛した相手となら、周囲を説得し、ヴァルドは結婚したかもしれないのだ。でもその相手である私は変装している。本当の私は、彼の純潔を奪ったとんでもない王女なのだ。私の正体を知ったら……百年の恋も冷めるだろう。というかいよいよショックで、その場でバッサリ私を……。
なんでこんなこんがらがる事態になってしまったのだろう?






















































