痛いところばかりつく。
「フロストの父親のこと、今も愛しているのか?」
この質問には、心臓が止まりそうになった。
な、まさか本人にそれを問われるとは!
一瞬、バレたー!と思い、全身に緊張が走った。
だが冷静に考えると、こんなことを聞くということは……。
ヴァルドは完全に私を、サンレモニアの森のミアとしか思っていない。
つまり、正体はバレていない!
深呼吸をして、口を開く。
「フロストの父親のこと、愛しています……。ただ、彼は、私が愛していると言っていい相手ではないんです。彼には婚姻に関し、制約がある方なので。それに何というか、私にとっては良きライバルでした。好敵手として、尊敬もしていたのです。そんな相手ですから、まず好きだなんて……言えない……。ですがその、お酒の勢いというか。自分自身ではどうにもできない不可抗力で……。彼と一晩を……。申し訳ないことをしたという気持ちで一杯です」
まさか本人を前に、こんなことを言うことになるなんて。
でもこれは後にも先にもないチャンスだ。
本人に贖罪できるのは、今しかない。
「お互いにお酒に酔っていたとはいえ、私が積極的にそういうことを求めてしまい……。本当に申し訳ないことをしたと思っています。彼はきっと怒り心頭で、見つけ次第、私を罰し、断罪したいと思っていると思います」
「……まさかそんな断罪……そんなこと、あるわけないのでは? 酒……に酔っていたなら、お互い様だろう」
歯がゆい。魔術のせいとはいえ、ヴァルドは無理矢理、純潔を奪われている。まさにそのことを、お酒に酔っていたせいでとやんわり話したが、伝わらないだろう。かといって、「その男性の純潔を奪ったのです」とはさすがに言えない。だってそれはヴァルドに気づきを与えることになりかねない。
この世界、娼婦以外で男性の純潔を積極的に奪おうとする女性はいなかった。
「その彼に聞いたのか? ミア自身のことを、どう思っているかと?」
「!? き、聞けるわけがないです。私を見つけた瞬間に、首を刎ねるかもしれません」
これにはヴァルドは呆れ、ついに笑い出した。
「ミアのような女性の首を刎ねる? どんな暴君だ? ミアはそんな最低な奴を好きになったのか?」
「ち、違います! 彼はとても尊敬できる人間です。騎士道精神に溢れ、真面目で、親切で優しい方です」
「ならば首など刎ねないのでは? 話し合いをしたいと思っているのではないか?」
そうだろうか。そうなの?
目の前に本人がいるのに。
欲しい答えを得られないのが、もどかしい。
いっそ「もしも」の話で、聞いてしまおうか。
もし純潔を奪われたら、どうですか、と。
ううん、ダメ、それはダメ。それでは疑われる。
「ミアがそれだけ相手の男性のことを分かっているのなら。その彼もミアのことを、よく分かっているのでは? お酒のこともある。不可抗力だったと、分かっているのでは?」
「……。それは……分からないです」
「彼が今、どこにいるのか。それも分からないのか?」
目の前に……。目の前にいるんですよ。
これはもうトホホ過ぎる。
「その様子だと、分からないのか。でもサンレモニアの村にいれば、足取りを掴むのは難しいだろう。隔離されているようなもの。……わたしが協力しようか? 探すのを手伝うが?」
「け、結構です。せっかく彼に見つからない場所に逃げ延びたのです。ここでフロストと二人、静かに生きて行くつもりなので」
「……その男性に、父親である彼に、フロストを会わせたいとは思わないのか?」
もうヴァルドは痛いところばかりつく。
しかも本人なだけに、質が悪い!
ううん。そんなことはない。
ヴァルドは何も悪くない……。
「会わせたいです。フロストは、私が親バカかもしれませんが、とても可愛いですから。きっと彼も喜ぶでしょう。ですが私のことは……。一夜の過ちのはずです。フロストは息子として迎えても、私のことはいらないと」
突然、ぎゅっと抱きしめられ、驚きを通り越し、息を呑む。
「先程から恐ろしい発言ばかりしている。自分がその男に害されると。その男が何者かは分からない。だがミアのことは、わたしが守ろう」
「え……?」
「ミアが望むなら、わたしがその恐ろしい男から守ってやる。わたしはこれでも皇太子。権力の頂点にいずれは立つ身だ。わたしの力と魔術、そして剣の腕を以てして、守れないことはないかと。それともこのわたしをも、上回る男なのか?」
これにはもう軽くパニックになる。
だって目の前のヴァルドが言っているその相手は、ほかでもない。ヴァルドなのに……!
どうしてこんなことに……って、私のせいだー!
「わ、私は、そんな将来皇帝になられるヴァルド皇太子殿下に守っていただくなど、恐れ多いです。ただの村人の一人に、そのような温情は恐れ多いですよ」
「温情……。ただの温情ではない。わたしはミアのことが」「「「アルク様、ミア様!」」」
沢山の声で名前を呼ばれ、見上げると、村人の男性がこちらを覗き込んでいる。
「今、ロープを投げますから!」
ソルレンがそう言うと、ロープが勢いよく降って来た。
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本作のコミカライズ化を願い、風景ですがイラストを追加しました~
「最強」と「……美しい」の2話です♪






















































