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宿敵の純潔を奪いました  作者: 一番星キラリ@9/2やられる前に発売:商業ノベル&漫画化進行中
第二部

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王道騎士道精神

 ユキウサギをもっと近くで見ようと、ヴァルドと共に歩き出した時。


「!」


 それはもう、落とし穴。

 瞬きをする間もなく世界が一転している。

 悲鳴すらあげることもできず、「ひやっ」というへんてこりんな声を出すので精一杯だった。


 ただ深さはなく、傾斜した穴であり、すぐに足が底についた。と思った瞬間に。


 ドサーッと何かが落下してきて、こちらも先程以上の不意打ちで、声は一切出ていない。


 私の落下と同時にこの穴に落ちてきた雪が、直撃したと分かった。


 バケツ三杯分ぐらいの雪を頭から被った状態だ。


 踏んだり蹴ったりと思ったところで、雪が突然、白い花びらに変わった。さらにそれは頭上へと舞い上がったと思ったら、ふわりと優しく抱きしめられた。


 ほんのり石鹸の香りもしてドキッとすることになる。


「ミア、大丈夫か!?」


 この声はヴァルド!


 口を開けようとしたら、そっと唇を彼の指で押さえられ、「しーっ」と言われる。


「ここは冬眠しているクマの巣穴だ。獣の香りがするだろう?」


 ドキッとして鼻から空気を吸い込むと、確かになんとも言えない臭いがする。 あまりにも一度にいろいろなことが起き、嗅覚がおろそかになっていた。


「いろいろすることがある。クマを刺激しないよう、静かに」


 そう言った後のヴァルドは、いくつもの呪文を唱え始める。


 呪文の意味が分からないので推測だが、「クマの眠りを深める」「獣臭を抑える」「私の服の汚れを落とす」「雪の落下を止める」などなどだと思う。


「足を挫いていないか?」


「はい。底に枯れ葉が溜まっていたので、大丈夫です」


 何より、戦士としての役割を全うするため、ズボンにブーツという装備だったのも幸いした。


「それはよかったで。それで脱出についてだが……。わたしは転移魔術でここへ来ることができた。だが自分以外を転移させる時には、魔術陣が必要。でもこの穴の中では魔術陣が展開できない。肩が問題なければ君を肩車し、上からソルレンに引き上げてもらうこともできるのだが……。肩の傷はまだ万全ではなく。そうなるとここでしばらく救助を待つことになるが、それでもいいだろうか?」


 勿論、構わなかった。確認するとクマは眠りが深くなっており、冬眠から目覚めることはない。ならばしばらくここで待つ分に問題はなかった。そこで「問題ありません!」と答えると……。


「申し訳ないな。わたしが万全でないために」


「いえ、そんな。私がうっかりしていました。……本当に今日、殿下が同行してくれて良かったです。もし殿下がいなかったら……クマの餌になっていました、私」


 そこで頭上から声が聞こえてきた。


「ミア!」「ミア様!」


 ハナとソルレンだ。


 すぐにヴァルドが状況を説明すると、二人は動き出してくれることになったが。


「わたしはここに残る。二人とも、よろしく頼む」


 これにはソルレンと私が「「えっ」」と反応していた。


 だって救助の算段は立っている。

 しかも私は怪我もなく、クマはぐっすり眠り、雪が落下してくる心配もない。


 つまりここで一人待つことになっても、何も問題ないと思ったのだ。


「ここから引きあげるために、ロープを取りに行くことになるのでは? 往復で相応の時間がかかるはず。それに今は晴れているが、この季節、天気が急変し、雪がちらつくかもしれない。何より、周囲に獣がいるような森の中。ミアをひとりにしておくことはできない」


 ヴァルドのこの王道騎士道精神が発揮された言葉には、胸がジーンと熱くなる。そこまで心配してくれたのね、と。


「それならばアルク、自分が」「ロープを使い、引きあげる時。人手が必要では? アクセル一人では無理だ。わたしは肩の傷もあり、引きあげを手伝うことはできない。だがミアのそばで体を温め、獣を撃退することはできる」


 ソルレンの言葉が終わらないうちに、ヴァルドがキッパリそう言い切った。しかも私の腰の剣を鞘から抜き、構えて見せたのだ。


 これはもう一切の反論は受け付けないというオーラが出ており、ソルレンは「御意」と言うしかできない。


「ソルレン、君はミアの夫だ。彼女のそばにいたい気持ちはよく分かる。だがここはわたしを信じ、救助を頼む」


 ソルレンはもう「かしこまりました」と頭を下げ、ハナはぽ~っと頬を赤くしている。これは事情を知らないハナのために、ヴァルドが気を遣った言葉だろう。ソルレンは夫ゆえに、私のそばにいたいと願ったが、今は救助を頼むと。


 それにしてもハナのこの反応、よく分かる。

 ヴァルドの言動は王子様にしか思えなかった。

 レディを守るとするその真摯な姿に、ハートを射抜かれたのだろう。


 ともかくこれでソルレンとハナは動き出し、私とヴァルドは救助を待つことにした。

お読みいただき、ありがとうございます~

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