わ、私ってば、何を……!
わ、私ってば、何を……!
そう思うが、今こうやってヴァルドに触れ、抱き寄せてもらえている状況。脳も歓喜している。心身の相反する反応に、私は軽くパニックだ。一方のヴァルドは落ち着いた声で、こんな風に言う。
「わたしの傷は特殊だ。魔術が込められている。もしポーションで癒せば、わたしの居場所が敵に伝わってしまう。よってポーションは使えない。すまないが、傷が癒えるまで、ここにいさせてもらえないだろうか?」
皇太子の頼み。「ノー」の選択肢はない。
さらにヴァルドがここに滞在すること。
……嬉しいと感じてしまった。
「も、勿論です。……こんな粗末な家ですが」「関係ない」
即答され、なんだかとろけそうになってしまう。
さっきまで、心身が相反する状態だったのに。
今は完全一致で、ヴァルド・ウエルカムになっている。
この自分の変化には、私自身が一番驚いていた。
「それで……君……。君の名は?」
「わ、私は……ミアです」
「……ミア、わたしはヴァルドだ。村長を通してもらって構わない」
ゆっくりヴァルドが、私から体をはなした時は「えっ」と声が出そうになり、必死に呑み込む。魅了魔術なんて発動していないのに! それにヴァルドは怪我をしているのに! 離れがたいなんて、思っている場合ではない。
そんなことよりも今、「ミア」と名乗ったけれど……大丈夫よね?
今は髪色と髪型を変え、眼鏡もかけ、声音にも変化をつけている。だからミアと名乗っても、マリアーレ王国の第一王女ミア・ソフィア・マリアーレとはバレていない……はずだ。でも私の正体に気づいたら……。
今のように抱き寄せられることもないだろう。
とても切ない気持ちが湧き上がる。
ヴァルドの傷は、ポーションで治すことができない。医師の見立ての春まで。ヴァルドは傷を癒すため、ここに滞在することになる。怪我をしているヴァルドには申し訳ないが、ここにいてくれることは……嬉しい。でもそれだけだ。それだけ。
嬉しい、以上終了――にしないといけない。
こうして私はミーチル村長を呼びに行き、ヴァルドから話を聞くことになった。ヴァルドはリビングルームに自身が向かうことを申し出たが、彼は怪我人なのだ。リビングルームの椅子を部屋に運び、ヴァルドのベッドを囲むように、ミーチル村長、ソルレン、私が着席し、護衛の戦士は扉の前で待機となった。ニージェは家事をしつつ、フロストの様子をみてくれている。
ちなみに村長の計らいで、我が家の門にはもう一人、戦士が見張りについてくれていた。これはもう村長のためではなく、ひとえに皇太子への配慮だ。
「帝国の皇太子であるヴァルド殿下。一体何があり、この村へ、この家へ来たのか。お聞かせいただけるか?」
ミーチル村長の問いに、ヴァルドは事情の説明を始めた。
「詳細を話すと、皆様のことも危険にさらすため、申し上げることはできません。ですがわたしは、わたしと対立するある一味から、攻撃を受けました。父上……皇帝陛下は事態に気づいていますが、今は静観の構えです。なぜなら反乱分子を抑えることも、皇太子であるわたしの責務。これぐらいコントロールできないようでは、皇帝にはなれません」
ヴァルドはそれが当たり前という風に話しているが、随分過酷だ。皇帝の鶴の一声で、解決できそうな気もするけれど……。これは可愛い子には旅をさせよ――ということかしら?
「とはいえ、万全の態勢で挑まなければ、返り討ちにあいます。よってまずは傷を癒すことに集中したいと考え、こちらでの滞在を希望しました。この場所は帝国でも簡単に手を出せる場所ではないので……。部下を連れていないのは、ここにいることが、敵にバレないようにするためです。それに帝都に残る部下は、わたしの帰還を待ちつつ、動いてくれています」
開口一番でヴァルドがこう説明すると、ミーチル村長はすぐに納得した。
「なるほどね。権力の頂点に立つ者は、苦労がたえないもんだ。皇太子殿下は、まさに試練の最中ということなのか。間もなくこの村は雪に閉ざされる。殿下と同じくらい魔術を使えなければ、この村に至るのは難しいだろうよ。そしてそこまでの魔術を使える人間は、帝国と言えど、少なかろう。よってここで傷を癒すというのは名案だ。村には空き家がまだいくつかある。新たにここに住みたいという人間のために用意した家だ。そこを」
「できればここに滞在させていただきたい」
ミーチル村長の言葉を遮るように、ヴァルドが口にした言葉に、私はドキッとしてしまう。
それはもしかして私がいるから……?と。






















































