恋バナ
普段の私なら絶対にしない“恋バナ”をふることで、ノルディクスに正体がバレないようにしよう。
そう思ったのだけど……。
ノルディクスはまず、リヴィ団長だった私には見せたことがない笑みを浮かべた。
「どうして急に婚約者の話を?」
「え、えーとですね。それは……その、あ! ほら、騎士団の団長さんなんて、モテそうですよね?」
我ながら苦しい受け答え……。
慣れないことはするものではないと悟るが、もう遅い。
「モテる……。そうですね。前任のリヴィ団長は大人気でしたよ。実は王宮のサロンに『騎士道サロン』というのがあり、表向きは騎士道について学ぶ会でした。実質はリヴィ団長を褒め称える会だったと聞いています。リヴィ団長を題材にした戦記をしたため、発表しあうものだったとか」
「……! ま、まさか、そんなものがっ」
そこで私はむせるように咳き込むことになる。
なぜって?
だってノルディクスが、リヴィ団長に関する変な情報を口にするから!
つい、リヴィの声音で話してしまったのだ。
でも短い言葉しか発していない。
バレるわけが……ないっ!
「……大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫ですわ。おほほほほ」
「……。ミア様の旦那様との馴れ初めを聞いても?」
「え、旦那?」
そこで疑問符を浮かべている場合ではない!
私には子供がいるが、旦那もいる設定なのだから!
「……ソルレンのことですね。ソルレンとはここではない場所で偶然知り合いました。お互いに惹かれ合い、彼を追うようにしてこの村に私も来たのです。しばらくして私の妊娠も分かり、正式に夫婦になりましたの。と言ってもここは、森の外の世界とは切り離されている村。ですので『正式に』と言っても、それはこの村での話なんですが」
「なるほど。……結婚される前にお子さんが……」
「あー、幻滅されているなぁ」と思う。しかしこれはもう仕方ない。
騎士道精神からしても、王侯貴族の純潔の概念からしても。
いわゆる前世風に言うなら、できちゃった婚は、あまり好ましいものではない。だが平民ではできちゃった婚は普通なのだ。王侯貴族が平民を羨ましいと思うとしたら、そこなんじゃないかしら?と思ってしまう。
「僕は約二年前。婚約するはずでした。その婚約話が浮上した時は、天にも昇る気持ち。まさに幸せの絶頂です。ただ、それは慎重に進める必要があるからと、公にはされず。そして公にされないまま、僕と婚約するはずだった女性は……病に倒れたと聞いています。面会謝絶の状態がずっと続き、僕との婚約の話も空中霧散してしまいました」
これは驚いた。
ノルディクスに婚約の話が出ていたなんて!
でも二年前、ノルディクスは二十三歳。
……婚約者がいない方がおかしい年齢。
しかし戦場を駆けまわっていたから、それも仕方なかったと思う。
うん……。待って。
記憶を探り、父親の言葉を思い出す。
――「ミアの婚約者候補選びが始まっていると、既に情報を流している。一応、筆頭候補はノルディクスだ。奴は公爵家の次男」
「え、えええええ!」
思わず声に出してしまい、ノルディクスが「どうしました!?」と心配そうに私を見る。
どうしたもこうしたも!
ノルディクスが言う幻の婚約者って、私だ!
え、ノルディクスは私を好きだったの!?
嘘でしょう!?
私とノルディクスは戦友だったはず。
違う、そんな色恋沙汰とは無縁だったはず!
それよりも、重要な情報を聞いてしまった。
――「僕と婚約するはずだった女性は……病に倒れたと聞いています。面会謝絶の状態がずっと続き、僕との婚約の話も空中霧散してしまいました」
つまり私は捜索されていないが、それは病気であり、王宮で臥せっていることになっているからだ。そして病気のことは、国民には特に発表されていない。
なぜ……?






















































