突然の
「きゃあ」「わぁぁぁぁ」「うわーーーっ」
村人の悲鳴が聞こえてくる。
振り返ると土埃が見えた。
外敵……人間ではない。
あれは獣では?
「!」
なんて巨大なサイズ!
体長は4メートル近くあると思う。そうなると体重は、0.5トンぐらいはあるだろう。前世で言うなら軽自動車に近い。おそらく時速は、40キロ前後は出ている。そして前世で猪は猪突猛進というが、実際は急な方向転換も得意としていた。そうなるとするべきことは……。
「皆さん、イノシシです。巨大なイノシシ! 背中を見せて逃げるのは危険です。ゆっくりと近くの建物に隠れてください! 教会には間に合わないので、近くの物陰に隠れてください!」
私の言葉を聞くと、ニージェも復唱してくれる。
おかげで皆、村の大通りを走り、教会へ向かっていたが。すぐに通りの左右にあるお店などへ避難していく。
「ミア、我々も隠れよう」「そうね」
フロストを抱いたソルレン、ニージェと共に、右手の金物屋へと逃げ込む。既に中には何人かの村人がいて、店の奥へと移動していた。
逃げ遅れがないか、扉の窓から通りを見ると……。
驚愕することになる。
通りの真ん中で、老人と少女が座り込んでいた。
おそらく驚いた老人――祖父が腰を抜かし、孫である少女が祖父を必死に助けようとしているのだと思う。
その二人の方へ、巨大イノシシは迫っていた。
それはまさに待ったなしだった。目についた鉄製のフライパンとお玉を手に取り、私は金物屋を飛び出していた。
イノシシ相手にまともな武器なしで、戦闘するつもりはない。音に敏感なイノシシに金属音を聞かせ、老人と少女をやり過ごしてもらえればいいと思っていた。
私が金物屋を飛び出しても、背後から声が聞こえないことに安堵する。
ニージェは私の名を呼ぼうとしただろうが、それはソルレンが止めてくれたはず。ここで騒げば、向かってくるイノシシの関心が、金物屋の店内に向かってしまう。だがさすが戦士のソルレン。そこが分かったのだろう。
通りの中央にいる少女と老人は、既に絶望していた。抱き合い、目を閉じている。もはや悲鳴すら出せない状態。これならば背を向けて逃げ、イノシシの注意を集めてしまうこともない。
私は二人のそばへ駆け寄り、向かってくるイノシシを見て、「!」と思うことになる。
その体には、よく見ると沢山の傷があった。
距離があった時には、気が付けなかったことだ。
つまりこのイノシシは、うっかり村へ迷い込んできたというわけではない。狩りの獲物として追われ、ここまで逃げてきた――ということだ。
ここで金属音を出しても、それはイノシシを逆上させるだけになってしまう。
間違いなく、突進してくる。
手負いのイノシシは、怒り心頭のはずだからだ。
ならば――。
金物屋の隣には倉庫がある。見ると、搬入のため、入口は開いていた。いざとなればそこに逃げ込む。梯子も見えている。屋根裏スペースにも、逃げ込むこともできるはずだ。
静かにフライパンとお玉を置き、目前に迫るイノシシを睨む。
クマもそうだが、イノシシも同じ。
背中を見ると、本能で追ってくる。
今だ――!
手負いのイノシシ、対する私は現役の戦士。脚力には自信がある。数メートルであるが、アドバンテージもとれていた。倉庫まで先に辿り着ける。
無謀だと思われるだろう。
しかしこうでもしないと、老人と少女も私も。
誰一人助からない。
前世記憶では、女性のスプリンターが出した最高時速は約40キロだったはず。きっと二十歳の私なら、まだそれに近い速度を出せる――。
私の脚力は完璧。
逃げ切れるはずだった。
だが――。






















































