フロストが
大腿を撫でるように、ビーシダールの手が動いた。
嫌悪で吐き気がし、鳥肌が立つ。
――いや! 私はヴァルド以外に触れられたくない……っ!
「うっ……」
悶絶するような声が聞こえ、太ももに感じていたビーシダールの手の感触が消えている。
「えっ……?」
恐る恐るで後ろを振り返ると、ビーシダールの口が押えられ、脇腹に剣が刺さっていた。しかもその剣をぐっとねじったので、ビーシダールが体を震わせ、嗚咽している。目と鼻から、涙と鼻水を溢れさせていた。そして剣を突き立てているのは……。
「ソルレン……!」
助けに来てもらえた感動と同時に。ビーシダールを手に掛けると、フロストが大変な状態になると思い、叫んでいた。
「待って、ソルレン、ダメ! フロストが、フロストが!」
「おぎゃー、おぎゃー」
「えっ……」
激しい泣き声の方を見ると、大きな切り株の上にフロストの姿が見えた。
「フロスト!」
「ミア様、ソルレン様!」
ニージェと戦士の役割を担う男性数名が、こちらへと駆けてきた。
◇
「落ち着いたかい? まったくとんでもない人間……いや、あれは悪魔だね。あんな輩がこの村に紛れ込んでいたなんて。でも大丈夫だよ。あの悪魔、命は取らなかった。だけどね、二度とこの村に来ることはできない状態にして、帝国の国境に捨ててくるように命じたから。協力していた使用人もね、同じ。だから安心しな」
騒動の後、私はソルレンに抱えられ、家まで戻ってきた。フロストの無事を確認できた私は……腰が抜けてしまったのだ。でもフロストは、しっかりニージェが連れ帰ってくれた。
一方のビーシダールは、駆け付けた戦士に連行されることになった。その間、激痛で叫び続ける声が聞こえていたが、それが突然止んだ。物理的に叫ぶことができない状態にされたと思うが、それは自業自得だと思った。
家に着くと、ソルレンはそのまま私を寝室に運び、ベッドへ下ろしてくれる。フロストは寝室内のベビーベッドに寝かされた。ニージェは私が落ち着くようにと、ラベンダーティーを用意してくれる。一方のソルレンは、ビーシダールが持って来た薔薇を暖炉にくべ、燃やしたという。
ようやく一息ついたところで、ハナと護衛の戦士を連れ、ミーチル村長が訪ねてくれた。そしてビーシダールに下された天罰を教えてくれたのだ。
「思い出すと辛かったら、後日でもいいよ。何があったか、話せるかい?」
ミーチル村長は、私が横になっているベッドのそばに丸椅子を置いて腰かけ、そう声をかけた。
ニージェはベビーベッドのそばでフロストの様子を確認しつつ、こちらの話も聞いている。ソルレンはベッドを挟み、村長の対面になる位置に、同じく丸椅子を置き、座っていた。寝室の扉の近くに、ミーチル村長の護衛の戦士が待機している。
あわやというところだった。だがビーシダールには結局、あの場所まで連れて行かれ、聞きたくもない話を聞かされただけで済んでいる。恥ずかしくて話せないような出来事は起きていない。よって奴が裏口に訪問してきたところから、あの場でソルレンに倒されるまでの出来事を、漏れなく話すことにした。
その話を全て聞いたミーチル村長は……。
「なんてあくどいやり方なんだか。しかしこの村の中で、そんなにビーシダールと関係を持った女性がいるのかと思うと……。色恋沙汰は当人同士に任せている。そこまであたしが口出しするつもりはないが……。もっとみんな自分のこと、旦那のことを大切にしてもらいたいもんだねぇ」
「でもビーシダールは、言葉巧みだったのだと思います。彼の言葉につい乗せられただけで、浮気願望があったわけではないと思うのですが……」
「まあ、それも一理あるね。ところでソルレン。お前さん、よくぞ坊やを見つけ出し、ミアの居場所を見つけることができたね?」






















































