告白
「では改めて。どうぞ、ソフィア嬢」
「ありがとうございます」
受け取った薔薇は、とてもいい香りがする。
「リビングに置いてきます」
「ええ、そうしてください」
そう言うとビーシダールは柔和な笑みを浮かべ、私を見送る。早歩きでリビングルームへ向かい、ひとまずテーブルに巨大な薔薇の花束を置いた。
窓から庭を見ると、生垣のそばでソルレンが、草むしりをする姿が見える。
王宮で暮らしていると、ガーデナーがいて、庭園も温室も面倒を見てくれた。だがここでは何でも自分でやらなければならない。それはある意味、戦場で過ごすのと似ている。
そんなことを思いながら、急ぎ裏口へ戻った。
紫の薔薇の花束がなくなることで、ビーシダールがいつもよりカジュアルな服装であることに気が付いた。白シャツに、深緑色のピンストライプ柄のベスト、そしてズボンという装いだ。さすがにこの暑さなので、ジャケットは着ていない。
「ソルレンを……主人を呼んで、一緒にお茶でも飲んで行かれますか?」
「その必要はございませんよ」
「そうですか……」
そこでビーシダールの後ろを確認し、フロストを抱っこしている従者の姿を探す。
あれ、いない……?
「ソフィア嬢」
「あ、はい」
「わたくしはあなたに初めて会った時から、恋に落ちていました」
「!?」
突然ビーシダールが告白を始めるので、目が点になってしまう。私が既婚者であると知っているのに、何を言いだしているの!?と驚愕する。
「ビーシダール様。私には勿体ないお言葉ですわ。既婚の身であり、子供もいる身です。それなのに女性として魅力を感じてくださる方がいるなんて。驚きです」
「ええ、お子さんがいる人妻であるとは思えない程、若々しい。社交界デビューしたての令嬢に思えるぐらいです」
「まさか! それよりフロストを抱いた従者の方は?」
これ以上冗談には付き合えないと思い、話を切り上げることにした。
「ご子息にもう一度会いたいでしょう? それならばわたくしについて来てください」
「何をおっしゃっているのかしら?」
するといきなり私の手をとると、ビーシダールは甲へと口づけをした。
「な、なんなのですか!?」
「ですからわたくしは、ソフィア嬢をお慕いしているのです。一度でいいので抱かせてください」
「!?」
「わたくし、人妻が好きなんですよ……。誰かのものに手を出す背徳感が堪らない」
裏口も表の玄関口にも。もしもに備え、剣を置いてある。手を伸ばそうとすると。
「ご子息がどうなっても、いいのですか?」
この一言に動きを止めることになる。
フロストを連れた従者はどこにいるの……?
「さすがに庭に旦那がいるのに、家の中では気まずいでしょう。森の奥に行きましょう。そこで一度だけ。終わったらすぐに家へ帰っていただいて構いませんよ。大切なご子息もお返しします」
「な、何を言っているのですか!?」
「騒ぐとご子息は、不慮の事故で命を落とすことになります。ここは自然豊かだから、事故は簡単に起きるでしょう。騒いでも同じです」
善人だとすっかり信じていたのに。
ビーシダールは……悪魔だった。
「さあ、時間がありません。あの花束に添えたメッセージには『花をもらった御礼で、お茶をしてくる』と書かれています。旦那さんも家にあなたがいなくても、疑問に思わないですよ。子供も連れて行ったと思うでしょう」
この下衆野郎は、なんて用意周到に……。
間違いない。
コイツはこの手口が初めてではないんだ!
村に顔を出しては、同じような手口で、村の女性に手を出していたのでは!?
「あなたの悪事、みんなに話しますよ!」
「それは構わないですが、恥をかくのはあなたですよ」
「え……」
「だって可愛いご子息を取り戻すには、わたくしに抱かれるしかないのですから。つまり旦那以外の男に抱かれたことを、皆さんに明かすことになるんですよ」
なんて鬼畜な奴なの……!
今すぐ首を落としたいが、そうなるとフロストに危険が及ぶ。
ここで騒いでソルレンが駆け付け、ビーシダールを痛い目に遭わすことができても、やはりフロストが危険だ。
ビーシダールは、羊の皮を着た狼。
こんな悪さを密かにしていたなんて!
思わず歯軋りをしながら、唸ってしまうが。
「分かりました。あなたの指示に従うので、先に子供は返してください」
「ダメですよ。子供こそが切り札なのですから。やることをやってから解放しますよ」
なんて奴なの。こんな奴にまんまと騙されるなんて……!
悔しさ満点の私に対し、ビーシダールは懐から懐中時計を取り出し、時間を確認する。
「あ、そろそろ出ないと、ご子息に危機が迫りますよ」






















































