サプライズ
ビーシダールは、その後も頻繁に村へ現れた。
村の工芸品を気に入り、自身の商会が運営する雑貨店で販売したいと、大量購入したのを皮切りに。次は森で採れたハーブで作ったポプリや石鹸も、まずは自身が使うように購入。その使用感を確認し、気に入ると、こちらも雑貨店で販売するからと、大量購入してくれたのだ。
おかげで村はまとまった外貨を手に入れることになった。それは村の自給自足では手に入らない、魔術アイテムや嗜好品の購入に充てられることになる。
最初こそ、ヴァルドの追っ手ではと警戒したビーシダールだった。だが私以外の村人とも打ち解けている。彼が来ると最初の頃は、私が案内人として動くことが多かった。ところが今では村の未婚の若い女性が、その役目を担ってくれていた。
そうなるのも当然だった。
ビーシダールは、帝国の侯爵家の次男であると、本人が明かしている。しかも未婚の二十二歳。そうなると村で暮らす妙齢の女性達としては、放っておけるわけがなかった。
この日、ソルレンは庭の手入れをしていた。
白シャツにスモークブルーのズボンという軽装で、汗をかきながら頑張ってくれている。盛夏のこの時期、草花が成長する速度は加速されている気がした。
ニージェは私とソルレンが昼食を摂る間、フロストにミルクと離乳食をあげてくれている。そこで食後、交代することになった。つまりフロストの面倒は私が見る。ニージェはたまにはということで、ランチのため、パン屋へ向かう。今日から夏限定メニューのパンが登場したからだ。
アイスグリーンのワンピースを着た私は、リビングルームでフロストを眠らせるため、あやしていると……。
裏口の扉をノックする音が聞こえる。
裏口は森に面している。そしてそこに薪置き場があった。
よって薪で使う木を届けるといった、森で調達したものを運び込む時に利用していた。表に回るより、運びやすいからだ。つまり裏口の利用は限られている。
「森で何か手に入れたのかしら? この前は、沢山のラベンダーの花をお裾分けしてもらえたわよね~」
そんな風にフロストに話しかけ、裏口に向かい、扉を開けると……。
「サプライズです、ソフィア嬢!」
本当にビックリした。
大量の薔薇の花束を抱えたビーシダールがいるのだから!
「あ、ありがとうございます……!」
受け取りたいが、フロストを抱っこしているので無理だった。でもビーシダールはすぐにそれに気が付き、後ろに控えていた使用人に声をかける。
「花束を受け取り、お部屋に置きに行くまで。ご子息を預かりますよ」
贈り物を受け取らないわけにはいかない。かといって今、女性しかいない家にビーシダールをあげることは、気が引ける。庭にいるソルレンを呼びに行きたいところだが、それまで玄関でお待ちください……なんて対応は、失礼だろう。相手は貴族なのだから。
私が迷っていると、ビーシダールが畳みかける。
「今日はこの薔薇を渡したら帰るつもりでした。この薔薇、よく見てください。紫なんです。紫の薔薇なんて珍しいでしょう? 帝国で最近開発された薔薇なんですよ。まだ帝国でしか手に入らないのです。ソフィア嬢にプレゼントしたくて、わざわざ持参しました。ぜひ受け取ってください」
この村に来るまでの道中は、決して平坦なものではない。
獣、毒虫、毒草もある。
こんなに綺麗な状態で薔薇を運ぶのは、かなり大変だっただろう。
「分かりました。では従者の方、お願いします」
「大丈夫。彼、既婚で子供が三人いますから」
それならば安心だ。
三十代ぐらいの従者は、慣れた様子でフロストを抱っこしてくれた。






















































