すべては親切心
夜間勤務を終えた戦士と交代で、この場に来たばかりなのだ。そして私は村の案内係ではない。よってビーシダールのこの提案は、丁重にお断りしようと思った。
だが……。
「ミ……ソフィア。この方はきっと、蜂蜜やワインのお店がオープンするまで、話し相手が欲しいのだろう。引き継ぎを聞く限り、獣に動きもない。平和だ。君の役割の分は、こちらでカバーもできるだろう。この紳士の話し相手をしても問題ない」
この場でリーダーを務める戦士の男性が、笑顔でそう答えたのだ。
これは完全に親切心だった。
余所者ではある。
それでもわざわざフォーマルな装いをして、礼儀正しくこの村を訪れたビーシダール。
そんな彼に対する親切心だ。
さらに私は、育休明けだった。いきなり活動量の多い村の周囲の警戒という役目ではなく、ビーシダールの話し相手という役割。それをリーダーである彼が振ろうとしたのもまた、親切心からだった。
それが瞬時に分かったので「私は体力的に問題ありません。話し相手などではなく、村の周囲の警戒の役割を果たさせてください!」とは言えなかった。
つまり「分かりました」と返事をし、ビーシダールをパン屋に案内することになったのだが……。
「ソフィア嬢。よろしければあなたをエスコートする栄誉を、わたくしに与えてはくれませんか?」
ビーシダールが、屈託のない笑顔でエスコートを申し出た。これに対し「え、それはちょっと……」とは言いにくい。それにエスコートは、男性の自然な行動の一つだった。ただ、ビーシダールがグイグイ迫って来ているように感じ、私は少し腰が引けていた。
それでもエスコートを断るのは、空気を悪くするだけだ。「分かりました。お願いいたします」と、ビーシダールがさし出した手に、自分の手を乗せた。
「ソフィア嬢は、なぜこちらの村にいるのですか? それにどうして剣を扱えるのですか? あなたのような美しい女性。剣など扱えなくても、引く手あまたでしょうに。その品のある雰囲気、そしてエスコートされることに慣れているご様子。どう考えても平民の方ではないですよね?」
これには「参ったな~」と思う。この村に定住する人々には掟が適用される。だがビーシダールは一時滞在するだけだ。よって掟を知らないし、過去の詮索を平気でする。こうなると……。
「私の夫がこの村の住人なのです。よって結婚を機にここへ移りました。息子にも恵まれ、とても幸せです」
この私の一言に、ビーシダールはダメージを受け、根掘り葉掘りの質問を止めるだろうと思った。ところが。
「人妻なのですね……! いろいろと経験がある方は素晴らしいと思います」
ビーシダールは、さらにご機嫌の笑顔で嬉しそうにしている。これにはもう、訳が分からない……だったが、パン屋に到着した。
村の住人たちは丁度朝食の時間。
パン屋は混雑している。
ビーシダールは同行している使用人に指示を出し、パンを購入しに行くように伝えた。その一方で私のことを、テラス席へと案内する。そういうところは普通に紳士的だった。
だが着席すると……。
ビーシダールは使用人がパンと飲み物を運ぶまで、私に根掘り葉掘りの質問を続けた。
結婚はいつしたのか。出会いのきっかけは?
この村で夫は何をしているのか。
子供はいつ生まれたのか……etc。
どうしてこんなに私に関心を持つのだろう?






















































