キス
フロストを無事産んだその日。
また夢にヴァルドが出てきてくれた。
前回と同じで私を優しく抱き寄せ、「元気な男の子を産んでくれて、ありがとう」と言い、労をねぎらってくれる。そしてくれぐれも無理しないようにと言った後――。
キスをしてくれた。唇に。
実はヴァルドの純潔を奪ってしまった時。魅了魔術に突き動かされながらも、彼の唇だけは奪わなかったのだ。
キスは結婚式で、主の前で誓いをする時にするもの――という強い刷り込みが私の中であったからだろうか? もしくはキス以上の行為の方に魅了されていた……というのは否めないけど。
ともかく夢の中ではあったが、ヴァルドとキスをできたこと。
とても嬉しかった。
同時に。
フロストを見せてあげたいな。
そんな気持ちにもなっていた。
夢の中のヴァルドは、私の願望が反映されている。
現実のヴァルドが私と再会した時、どんな反応をするのか。
それはもう恐ろしくて、想像すらできない。
でも夢のヴァルドなら、フロストを見て、きっと喜んでくれる!
ただ……。
魔力がない私とヴァルドの間に生まれたフロスト。
魔力はあるだろうが、きっとヴァルドには及ばない。
本来通りの五つの公爵家の令嬢とつがい婚姻をしていれば、強い魔力の子供に恵まれただろうに……。
そこは本当に。
いくら魅了魔術にかけられたとはいえ、申し訳ないことをしてしまったと思う。
ただあの夜は、後悔もあるが、歓喜も大きかった。
それは肉体的な喜びだけではなく、感情の部分でも……。
きっと一生伝えることのない想い。
でもそれでも構わない。
私にはフロストがいる。
ヴァルドに伝えられない想いの分、フロストにたっぷりの愛情を注ごう。
そう誓い、私の子育てが始まった――。
◇
フロストが誕生して一年が経った。
あっという間の一年だったと思う。
子育て経験のあるニージェがそばにいてくれたし、ソルレンもいてくれた。おかげでフロストはすくすくと成長してくれている。そしてその顔立ちは……まだ一歳ながらヴァルドを彷彿させた。
ヴァルドそっくり!とならないのは、髪がブロンドであるのと、ポーションを飲ませることで、瞳が深みのある青紫色になっているからだ。
「ミア。本当に週明けから、戦士としての役割に復帰するのですか?」
ニージェがフロストをあやしてくれている間、私とソルレンは夕食を摂っていた。
鹿肉とポテトとニンジン、タマネギなどがたっぷり入ったポトフだ。焼き立てのパンと豆のサラダもある。
「ええ。ニージェもいてくれるのだから、みんなの厚意に甘えてばかりはいられないわ。一年しっかり休ませてもらえた。これからはちゃんと恩返しをしないと」
「なるほど……。ではいきなり毎日ではなく、まずは一日おきからでどうですか? 自分とシフトを調整してもらい、ミアが役割に出る時は、家にいられるようにしてもらいます」
ソルレンはとても育児に協力的だ。役割もきっちり果たしているし、落ち着いた性格で責任感も強い。さすが元騎士なだけある。しかもサラリとした銀髪をしているから、後ろ姿を見てヴァルドを思い出し、ドキッとしたことは何度もある。
何よりこの気遣いに何度も助けられた。
「ソルレン、ありがとうございます。そうですね。慣れと勘を取り戻す必要があるので、一日おきでスタートさせてもらうようにします」
そう答えると、フロストをあやしながらニージェがクスクス笑っている。
「ミア様は『ちょっと休憩。気分転換させてもらうわ』と言いだして、何をするのかと思ったら……。庭に出て剣を振るっていましたよね?」
「そ、それは……。一日一回でも剣に触れていないと、その、勘が……」
「それなら勘は取り戻すまでもないですよ。大丈夫です」
ソルレンにフォローされ「な、なるほど」と赤くなる。
でも冷静に考えると、王女が本業(?)だったのに。
これではすっかり、女騎士が本業になっている気がする。
こんなに剣の腕を維持してどうするの?と思ってしまう。
なぜならヴァルドも父親も、私を捜索している様子がないからだ。
つまり……諦めてくれたのだと思う。
追われることを想定していたので、これには少しがっかりする部分もあった。でもいざ追われたら大変なことになる。サンレモニアの村にいるとばれてしまい、この村を出ることになった場合。ではどこへ行くかとなったら……。
私一人だったらまだしも、今はフロストもいる。
追っ手はなく、平和に暮らせる……それに越したことはないのだ。
ただ私を諦めたとしても。
子供が、フロストがいると知ったら、話は別だろう。
ゆえにもしもには備えている。
フロストにはポーションを飲ませ、私も剣の腕を落とさないようしていた。
役割に戻るのも、戦士として動くことで、いざという時に備えられると思ったからだ。剣の腕は維持できても、咄嗟の判断は、日々鍛えるものだと思う。よって役割に戻るのは……私とフロストにとって必要なことでもあった。
こうして週明けから、私は役割に戻ったのだけど……。
戦士に復帰して早々、厄介な方を相手にすることになった。























































