ついに……
領主からのセクハラ被害に耐え兼ね、逃げてきたというメイドの女性が村にやってきた。
今、サンレモニアの村で、妊婦は私だけ。そして私には、妊婦を支える夫がいない。ゆえにミーチル村長はそのメイド、名前はニージェを私につけてくれたのだ。
それまでは私の具合が悪くなる度に、ソルレンが介抱してくれていた。だが彼は自身の役割もある。私の世話ばかりはしていられない。よってニージェがついてくれた意味は、とても大きい。
しかも銀髪にダークグレイの瞳のニージェは、領主の家で赤ん坊の世話もしていたというのだ!
これは実に心強い!
さらに私は夜勤に就くことはなくなった。ミーチル村長の護衛がメインの任務。
皆が私をサポートしてくれた。
おかげで頑張ってお腹の子供を産もうという気持ちになっている。
こうして――。
翌年の初夏、私は元気な男の子を出産した。
◇
誕生した息子の名前は、フロスト。
もし彼に正式なファミリネームが与えられるならフロスト・アルド・ノースクリスタルとなるだろう。……そうなることはないけれど。
ヴァルドの血を引き継ぐと分かるアイリス色の瞳で、うっすらと生える髪は、なんとブロンド! その姿を見るに、ノースクリスタル帝国とマリアーレ王国の血を継いだ赤ん坊だと、よく分かる。
透き通るような肌の美しさはヴァルド譲り。
小さな手。小さな口。小さな鼻。
なんて愛らしいのだろう。
まだ笑うなんてできないのに、微笑んでいるように見えてしまい、頬が緩んでしまう。
でもそんな風にデレることができたのは、一瞬のこと。
ミーチル村長、医師、助産婦、ニージェ、ソルレンが部屋に来て、真剣な顔で私を見る。
その瞬間、全てを悟った。
出産の激痛、それを終えた後の歓喜。
ようやく目をフロストが開けてくれた時、それは感動しかない。
つまり失念していた。
フロストの瞳を見て、この五人は瞬時に全てを察したはずだ。帝国の、皇族特有の瞳の色を持つ赤ん坊が誕生した。フロストの父親が誰であるか、想像したはず。
さすがに現皇帝陛下とは思わないだろう。しかもこの村にやってきたということは訳あり。そうなると、五つの公爵家の問題児とお痛があり、この村へ逃げ込んだ……と思われたのではないか。
まさか品行方正で謹厳実直、帝国の英雄であるヴァルドの子供であるとは思わないだろう。
「……ミア。驚いたよ。お前さん……すごい運命を背負っているんだろうね。驚いたけど、お前さんはもうこの村の戦士だ。この赤ん坊……フロストの父親が誰であろうと、ミアのことを守る。安心するといい」
ミーチル村長は、出産を終え、ひと段落した私にこう言ってくれたのだ。
この時は本当に。
サンレモニアの村に来てよかったと心から思った。
「この村に住む人間に悪い奴はいないよ。でもね、この村に出入りする人間もゼロではない。こんな場所だけど、ピーターとアズの店のパンが美味しいからと、わざわざ買い求める者もいるんだよ。そういった人間にまで、水晶の判定はしていない。居座るわけではないからね」
この村に住んでいたが、いろいろ事情があり、出て行く者もいる。そう言った人から口コミで、この場所を聞いた者の中には。獣や虫、毒草の洗礼を物ともせず、足を運ぶ者もいた。
「要は余所者に、フロストが目をつけられたら大変だ。それでこのポーションを用意した。魔術アイテムだよ。これを飲めば瞳の色を誤魔化せる。一粒飲めば一週間は持つ」
ミーチル村長が、青い粒がびっしり入ったガラス瓶を、ベッド横のサイドテーブルに置いてくれた。
「まだ生まれたばかりですからね。すりつぶし、ミルクに混ぜ、飲ませてください。体に害はないので安心してください」
医師にもアドバイスされ、私はミーチル村長と二人に、感謝の気持ちを伝える。
「お前さんの立場が分かった。子育てしている間はソルレンを護衛につけるよ。ただね、護衛としてつけると目立つだろう。ソルレンはミア、お前さんの旦那ということにするが、いいかい?」
護衛をつけてくれることは心強い。だがソルレンはそれでいいのだろうか? 私と男女の仲ではないかと言われた時、顔面蒼白になっていたのだ。それなのに……。
「ミア。自分ごときが君の夫を演じるなど、おこがましいことだと分かっている。だが君の立場がバレないようにするには都合がいい。護衛というより、夫の方が。受け入れてくれるだろうか? あくまで表向きが夫で、実質はこれまでと変わらない」
なんとその場で片膝を床について跪き、まるで騎士のようにそんなことを言うのだ。当然驚いてしまう。驚いたがこれでソルレンは、以前騎士をしていたのではと思えた。
それはさておき。
私のために夫を演じてくれるソルレンには感謝しかない。
「こちらこそ、私のために演技をさせることになり、申し訳ないです。ぜひ夫に扮し、護衛をお願いできますか?」
明けましておめでとうございます!
新年に本作をお読みいただき
ありがとうございます。
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