【番外編】バカンス(23)
島が消える!
そこでフロストを抱いた私はセフィーナに、メラニーとケイン大公はエストールに乗り込んでもらい、すぐに飛び立つことになった。
メラニーの風の精霊の力ではなく、セフィーナとエストールに乗ることにしたのは……見届けるため。
島が消え、もう二度と女神に誘惑される者が出ないことを確認するために。
「マァマ、みて! キラキラとかがやいているよ」
冒険映画では、お宝を発見した後。
洞窟や建物が崩壊することは、あるあるだった。
島が消える──海に飲まれるように沈む展開を想像したが、違っていた。ガラスのような花びらを持つ花が消える時と同じ。淡い光と共に輝き、少しずつ様々なものが消えていく。島を覆うように生えていた木々も。花も草も。砂浜も。動物や虫、鳥すらも女神の力で出来たものだった。羽ばたいたと思った鳥も、淡い光と共に空へ溶けていく――。
「ケイン大公、メラニー。全て終わったわ。帰りましょう、ブルクセン大公国へ」
◇
転移魔術では、一度行ったことがある場所に転移ができる。よっていずれかの島に降り、魔法陣を展開し、一気に宮殿へ戻ることもできたが……。
豊かな海にはイルカやクジラの群れがいたり、航行する大型客船や貨物船もあるのだ。
行きはそう言ったものをのんびり見る余裕はなかった。フロストも気になっているようだが、我慢してくれていた。
だから――。
『ヴァルド。無事、目的を果たしました。ケイン大公とメラニーを取り戻し、ヴァルドに掛けられた女神の呪いも解くことができたわ。そして女神の島は消え、もうあの花が咲くことはない。だから少しのんびり戻ってもいいかしら? フロストにイルカやクジラ、沢山の船を見せてあげたいの』
そう心の中で語り掛けると。
『もちろんだ。イルカやクジラはそう見る機会があるわけではない。せっかくのバカンスだ。わたしもあの花が消えてくれたおかげで意識も戻り、ルクルドやマッドとも話をしている。何も心配はない。のんびりするといい』
ヴァルドの寛容さに胸が熱くなる。
本当はフロストにも私とも。
早く会いたいだろうし、こういう時、自身が優先されないことで不機嫌になる人もいる。
でもヴァルドは心に余裕があった。
ドンと構え、揺らぐことがない。
何よりも私を信じてくれている――。
フロストにイルカやクジラ、大きな客船を見せてあげたい。そう思っていたのだけど……。
ヴァルドに今すぐ会いたい。あの胸の中に飛び込みたい――なんて気持ちにもなってしまうが。
「マァマ、みて! みて! くじらさんがしおをふいているよ! えほんでみたのといっしょだよ!」
フロストの声に我に返る。
「まあ、本当だわ。ママもこんなの初めて見たわ!」
クジラの潮吹きでできた霧。
そこには陽射しが当たり、綺麗な虹もかかっていた。
◇
ブルクセン大公国からも船が往来している、拓かれた島に到着した。そこのホテルで一泊することになった。
その島では、近くの島と島の間に沈む夕陽が絶景だというので、それを見ながらディナーを楽しんだ。そのディナーの最中。一日中興奮していたフロストは、コクコクと船を漕いでいる。
そこで私は一足先でディナーをフロストと共に切り上げた。
二人きりになると分かると、ケイン大公が少し慌てた様子だったが……。
女神に乗っ取られ、ケイン大公に迫ることになったメラニー。お互いそれまで意識することはなかっただろうが、今回の件でそこが変わった。今はお互いを意識している。
特にケイン大公が、メラニーを気にしていると思えた。
ケイン大公に婚約者はいない。
メラニーも帝国に単身でやってきたぐらいなのだ。婚約者もいない独身。
もしかしたら何かあるかしら?なんて思いながら、フロストを寝かせるための準備をすすめる。
こうしてフロストをベッドで寝かせた後。
私も入浴を行った。
窓から海辺の街を見下ろす高台にあるホテルは、浴室が窓辺に作られている。
つまり湯船につかりながら、街の夜景を楽しめるのだ!
トロピカルアイスティーを飲みながら、夜景を見て入浴していると。
無性にヴァルドに会いたくなる。
この景色を見ながら、ヴァルドと入浴したい……。
そんなことを思いながら入浴を終え、ホテルで用意されているラベンダー色のシルクの寝間着に袖を通し終えた時。
ふわりと優しく後ろから抱きしめられる。
驚きと、それ以上の喜びで胸が高鳴る。
「ヴァルド……!」
「ミア。ありがとう。君のおかげでこうやってもう一度。君を抱きしめることができる……」
ヴァルドが女神の呪いにかけられたと分かった時。
本当は泣きたい気持ちでいっぱいだった。
でも泣くよりも、ヴァルドを救う算段を立てるため、我慢していたが……。
「本当はとても不安だったの! もしも呪いを解くことが出来なかったら。ヴァルドがこのまま永遠に目を開けなかったらって。でも……」
そこからは涙がポロポロとこぼれ、ヴァルドはその涙を自身の唇で受け止めながら、「沢山、心配をかけてしまったな。すまない、ミア」と優しく告げてくれる。
その優しさに、さらに涙が止まらない!
「ヴァルドがちゃんと生きているって感じさせてください」
「もちろんだ」
その後、抱き上げられ、ベッドで横になった後は――。
私がヴァルドの存在を感じられるように、指先から始まり、体の隅々までキスをされて。間違いなくヴァルドがここにいることを感じられた。さらにお互いのつながりを実感できる、ゆっくりとした優しい動きに、身も心も完全に溶かされる。
何度も何度も。
悦びの極みを感じ、ヴァルドの深い愛に触れ――。
真夏の夜の、熱く濃密な時間。
それはヴァルドと私の密やかな息遣いと共に、静かに流れて行く。
お読みいただき、ありがとうございました~!
バカンス編も無事完結です☆彡
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