【番外編】バカンス(21)
メラニーの風の精霊の力で、女神の島からかなり離れた場所に運ばれる時。チラリと視界にセフィーナとエストールの姿が見えた。
その後有人島に到着し、交渉をすると、空き家を貸してもらえることになった。そこのベッドでフロストを昼寝させていると、ちゃんとセフィーナとエストールが姿を現わしたのだ。
飛来する二羽を見て、メラニーはお茶の準備をしながら、こんなことを言う。
「私、何かに体を乗っ取られてから、不安で不安で仕方なかったのです。だって私の体を使い、その女神? とても女神とは思えませんが、彼女はケイン大公にとても失礼なことをしようとするので……その度にエストールが現れ、牽制してくれたんです。女神の力で増幅された、風の精霊の力で吹き飛ばされそうになりながらも、がんばってくれて……。おかげでケイン大公に大変なことをしないで済みました」
ローダン元侯爵を見たら、散々「イオス様!」と女神は言っていたが。その前はケイン大公を抱こうと、あの手この手を女神は使おうとしていたようだ。
それにしても女神の力で増幅された、風の精霊の力。
なるほどね。
これでヴァルドの魔術が押された理由も納得だった。さすがに女神と精霊の力を一人で相手では、分が悪い。
そこは納得だが、疑問はまだある。
「女神は実体がないのかしら? だからメラニーに乗り移ったの?」
「あ、そこなんですけど。風の精霊の力を欲していたようなのです」
そこでお茶の用意が終わり、水浴びをしたケイン大公が戻って来た。その際、メラニーと目が合うと、ケイン大公は困ったような照れた顔になる。
これは……一線を超えることはエストールのおかげでなかった。だが結構、際どいところまで行くことがあったのでは……?
そう思うものの。
さすがにそこは詮索できない。
代わりでリビングルームのソファに腰を下ろし、お茶を飲みながら、いろいろと話すことになった。
まずはルクルドから聞いた、彼らの祖先であるイオスと女神の話だ。
私の話を聞いていると、ケイン大公は「あっ!」と反応する。
どうやらかつて女神の話を聞いていたこと。それを思い出したようだ。
ともかくひとしきり、イオスと女神の件、さらには呪いのことを話し終えると……。
女神がなぜ風の精霊の力を欲したのか。それをメラニーから聞くことにした。
「まさか私の体を乗っ取った者の正体が、女神ではあるとは思わなかったのですが……。女神なら、なぜ?という疑問が浮かんでしまいます。ですがその時の私は、女神に憑りつかれたなんて思っていないので……普通にこう思いました」
そこでメラニーが紅茶を口へ運ぶ。
「ブルクセン大公国から、女神がいた島は、さすがに遠すぎます。単純に考えてもそこは船ではなく、風の精霊の力で移動できれば、スムーズです。だから私の体を乗っ取ったのだと思いました」
これにはなるほど、だった。
だがそれは、乗り移ったのが一般人だったらの話。
メラニーの体を乗っ取ったのは、女神なのだ。
そこを踏まえ、メラニーは話を続ける。
「その正体が女神であると分かると……。不思議でした。女神だったら風の力だって当たり前のように使えると思ったからです」
「そう言われると……そうね。女神が風の力を使えない理由。何かあるのかしら?」
「あの、ミア皇太子妃殿下」
ケイン大公が遠慮がちに手をあげる。
「ケイン大公、どうされましたか?」
「女神の話を幼い頃、両親にベッドで話して聞かせてもらっていた時。私の中で疑問がありました。なぜ女神が地上にいるのかと。女神にしろ、男性の神であるにしろ。通常は天に。空にいるはずなのです。それなのにどうして南の海に浮かぶ無人島などに住んでいたのか。気になり、両親に尋ねていました」
そこで疑問を覚えるとは!
だが言われてみれば、気になる。
「なぜ女神が地上にいるのか。答えは分かったのですか?」
「正解かは分からないのですが、両親が想像した答えを話してくれました。でも私としては納得がいく答えです。女神は天界にて罪を犯し、地上へ落とされたのではないかと」
「なるほど……。地上へ落とされた女神は、天界へ行けるような風の力は使えなかった……。辻褄はあいますね。しかし女神が罪を犯すなんて。しかも地上へ落とされる程の罪とは何なのでしょう……?」
ケイン大公は紅茶を一口飲み、自身の予想として話し出す。
「可能性としては、この世界でも大罪とされる不倫。もしくは女神でありながら人間と恋に落ちた。恋人や夫の神の浮気に怒り、禁忌の力を使った……そんな理由を想像しました」
「どの理由も確かに天界から落とされる可能性がありそうですね。それに女神でありながら、イオスに逃げられた後、他の船乗りを誘惑して帰らぬ人にするところ。他の生物を死滅させているところ。天界から追放されたような女神であるならば、そんな恐ろしいことをしたとしても、納得できてしまいますね」
これにはケイン大公だけではなく、メラニーもコクリと頷く。
女神だが、咎人。
今頃、狂気的な熱愛に迫られたローダン元侯爵がどうなっているのか。
その答えの確認は――翌朝に持ち越しとなる。
お読みいただき、ありがとうございます!
明日は18時頃に更新します〜