青ざめる
ハナの大いなる勘違いに、ソルレンと私は声を揃えて答えることになった。「「違います!」」と。ソルレンは私とそういう関係と言われたことが、よほどショックだったのだろう。顔面蒼白になっていた。
ソルレンは頼れる同僚であり、親友という関係だった。しかし男女の仲ではない。ゆえにソルレンが衝撃を受けるのは分かるが、そこまで青ざめなくても……と思ったのは一瞬のこと。
もし妊娠しているのが事実なら、父親は誰かと言ったら……間違いない。
ヴァルドだ……。
ソルレンが青ざめていたが、私もそう理解した瞬間から、青ざめることになる。
「ちょっと二人とも、そんなに青ざめて。分かったよ。二人はそういう仲ではないんだね。そうなると……。大丈夫だよ、ミア。この村で生まれた子供は、みんなの子供でもある。父親がいないこと、不安になる必要はない」
ミーチル村長の言葉に安堵できた……わけがない!
それにまだ妊娠したと決まったわけではない!
ただこの世界に妊娠検査薬なんて存在していなかった。
妊娠初期に見られる症状、つわり、月のものの有無、身体的変化などなどで、判断するしかない。ゆえにこの場では「妊娠の可能性はあるかもしれないが、違うかもしれない!」ということで終わらせることになったが……。
あの日、魅了魔術に完全に操られている時。避妊なんてしていなかった。あの時は魔術により、快楽を貪ることに夢中になっていたのだ。避妊なんて頭にまったく浮かんでいない。その上であれだけ肌を重ねれば……。
避妊していないのだ、一切。
妊娠して当然だと思えた。
それでも、もし妊娠していたら……。
大変なことである。
特に皇族特有の、あのヴァルドと同じアイリス色の瞳の赤ん坊が誕生したと分かったら……。
私達親子は、方々から狙われることになる。
ううん、まだ妊娠したと決まったわけではない。
そう自分自身を励ましたが……。
その後の私は、すこぶる調子が悪い。
食欲がなく、吐き気を覚える。
煮炊きの匂いに気持ちの悪さを感じてしまう
さらには月のものがこない……。
この様子を見たミーチル村長は、「いざとなったら、近隣の村や町から、医師と助産婦を呼んでくる。安心していい」と気遣い、ソルレンは何度も私の役割を代わってくれた。さらに家に一緒にいる時は、ずっと見守り、気を配ってくれた。こうなるとソルレンが冗談ではなく、私の夫ように周囲からは見えたことだろう。
そして私は夢を見た。
その夢の中に出てきたヴァルドは、あの大天使のような姿で、秀麗な笑顔を浮かべる。
そして私を抱きしめた。
さらに耳元で、いつもの凛とした声ではなく、優しくささやく。
「わたしとミア、二人の血を継ぐ新しい命が、君のお腹に宿った。大切にして欲しい。遠くからではあるが、ミアのことを見守っている」
そこで私は「ああ、やはり私は、ヴァルドの子供を授かったのね」と事実を受け入れた。
何となくこの夢が、主の啓示のように思えたのだ。
私が事実を受け入れたからだろうか。
主がサンレモニアの村に、医師と助産婦を遣わしてくれた……というのは偶然だろう。
医師と助産婦の夫婦は、帝国で開業しようとしていた。ところがその資金を強盗にとられ、無一文になってしまった。そしてこのサンレモニアの村について知り、流れ着いたと言うのだ。
「ミア、お前さんは何か運を持っているようだ。これで安心して子供を産めるよ」
ミーチル村長の言う通り。
何しろ私は初産となる。前世でも出産の経験はない。森の外に医師や助産婦がいると言われても、突然何か起きた時、すぐに専門家がいてくれた方が心強かった。
さらに。
お読みいただき、ありがとうございます!
2024年最後の更新です~
勿論元日もちゃんと更新いたしますので、引き続きお楽しみくださいませ☆彡
今年も沢山応援いただき、ありがとうございます。
読者様に出会えた奇跡に心から感謝です。
来年も読者様にキュンとしてドキドキ、先が気になる物語をお届けできるよう頑張ります!
それではよいお年を~
PS
蔵出し更新はまだ続いています(笑)






















































