【番外編】バカンス(16)
あのふざけた花がヴァルドの魔力を抑え込んでいる。
なぜあの花の種がメラニーの耳に突然現れたのか。
そのヒントは――。
マッドが執務室で虫を見たと言っていたが、それなのかもしれない。
ブラックパールのような種。
あれを見た時を思い出す。
従順なはずのセフィーナが不意な行動を起こさなかったか。一瞬ではあるが、セフィーナの足が種が散乱する砂州に触れていたと思う。
そこだ。
その時だ。
そこであの花の種はセフィーナの足にまぎれ、ブルクセン大公国までやって来たに違いない。
そして今は――。
メラニーを操り、ケイン大公を連れ、砂州の島に戻った。
でもあの島は海に没するのでは?
今はまだ、海面から顔を出していても。
やがて沈む。
まさかメラニーとケイン大公を海に沈めるつもりでは……?
古の力。
その力の持ち主がケイン大公を「見つけた」。
そしてあの島に連れ去れ、海に沈めるのだとしたら……。
メラニーは利用されているに過ぎない。
しかしケイン大公はその力の持ち主に、恨まれているのでは?
だがケイン大公はあの島に行ったことがないはず。
どうして恨まれたの?
「「ミア皇太子妃殿下……」」
遠慮がちではあるが、駆け寄ったリカとコスタに声を掛けられた。
寝室を出た私は、扉を背に立ち止まり、考え込んでいたのだが。
どうやらリカとコスタは浜辺から宮殿へ戻って来ていたようだ。
前室には、フロストを抱き、ルアンナから傷の手当てを受けているマッド以外にも、リカとコスタ、数名の護衛のための騎士の姿が見えた。
「マッド様からすべて聞きました。何が起きたのかも。……殿下はどうですか? 目覚められましたか?」
コスタが問い、私はすぐに答える。
「いえ。ヴァルドはしばらく目覚めないわ。いろいろと考え、動くことがあるの。……リアンナ。ケイン大公が不在の場合、誰が公国の指揮権をとるのかしら?」
「その場合はローダン侯爵が動くことになっていましたが……。彼は牢獄の中で……」
そこで扉をノックする音が聞こえる。
誰が現れたのかと思ったら――。
「突然の訪問でお許しください。私はルクルド・セイン・ブルクセンです」
◇
ヴァルドが危機に瀕していることで。
私がなんとかしなければと奮い立った時。
同じように気持ちを奮い立たせた人物がいた。
ルクルド・セイン・ブルクセン。
ケイン大公の兄だ。
ローダン侯爵の策略で、ルクルドはドリンという薬草が含まれたお茶を長きに渡り服用することになった。そのせいで精神を病んでいたルクルドだったが……。
「お茶の服用をやめ、そしてヴァルド皇太子殿下が届けくださったポーションを飲むようになったのです。すると頭に常時かかっていた靄が消えて……。私からすると劇的に状況が変わりました」
とてもドランにより精神を病んでいたとは思えない。これはヴァルドのポーションのおかげね、と、誇らしく思う。
「そんな中、ものすごい音が聞こえ、屋敷全体揺れるような事態が起き……。ケインが攫われたと聞きました。大切な弟です。病んだ私の代わりに頑張ってくれた弟を思うと……。ベッドで伏せている場合ではないと思えました」
ルクルドはホワイトブロンドの髪を短くしており、ケイン大公と違い、中性的ではない。キリッとしており、凛々しく感じる。ただ瞳は同じ。白水色をしていた。
「弟を助けたいですし、私のためにポーションを用意くださったヴァルド皇太子殿下のことも助け出したいです!」
前室のソファにルクルドとルアンナが座り、その対面にフロストを抱いた私とマッドが腰を下ろしている。
フロストは今、私の側から離したくなかった。何が起きるか分からないからだ。
マッドは怪我をしているので、座るように命じている。
ちなみにルアンナは「私はリカさんの隣で一緒に控えます」と言ったが、ルクルドもルアンナが妹であることを知っている。「大切な話をするのだから」と隣へ座らせた形だ。
ちなみにリカとコスタは扉近くでルクルドの護衛騎士と一緒に控えてくれていた。
「ルクルド様。ヴァルドのことも助けたいと言って下さり、ありがとうございます。すぐにもケイン大公を助けに行きたいのですが……。まず彼が攫われた幻の島。そこはここからとても遠い。操られたメラニーは風の精霊の力でそこに向かいました。私達がそこに向かうには……」
ヴァルドがいてくれたら。
既に一度行った場所なのだ。
転移魔術で移動できると思う。
でも、今はヴァルドは戦力外だ。
「セフィーナがもどってくるよ、マァマ!」
「フロスト、何か感じたの?」
「とおくからセフィーナのこえがきこえたよ。『いま、もどります、あるじ』って」
テイマーの力ね!
ケイン大公を助けるため、幻の島に向かう算段は一応立った。ただし。向かえる人数は限られる。
それに。
ヴァルドのあの花をどうするか。そちらについては文献などを調べるところから始めるしかないと思ったが。
「ヴァルド皇太子殿下の胸に巣食う花。それについて気になることがあります」
そう言ってルクルドが私を見た。






















































