【番外編】バカンス(14)
担架でヴァルドを運んでくれた兵士達。
彼らはヴァルドをベッドへと移すと部屋を出て行った。
兵士達を見送るとルアンナは私を見る。
「ポーションを皇太子殿下に飲ませますよね?」
「そうですね。大きな傷はありませんが、せっかく用意があるので」
「分かりました。私はケイン大公のことが気になるので、そちらのソードマスターであるマッド卿に話を聞いてもいいでしょうか?」
私は「ええ、そうしてください」と応じる。
ヴァルドが発見され、兄であるケイン大公の姿がないこと。ルアンナはとても心配だと思う。だがその気持ちを抑え、ルアンナはヴァルドをここへ連れてくるまでをきちんと兵士達に指示してくれた。
結婚したルアンナは精神的にとても成長したと思う。
感動する私にルアンナは、手短にヴァルド発見の様子を伝えてくれる。
「皇太子殿下が落ちた場所は、丁度植え込みがあったのです。おそらく落下している最中に意識を失われたと思うのですが、その直前に魔術を使われていたのではないでしょうか。大きな怪我はされておらず、植え込みで眠るように倒れている状態で発見されました。何度か声はかけたのですが……目覚めません」
「なるほど。分かりました。いざとなれば気付けのポーションを試しますが、まずはあちこちの小さな怪我を治癒するためのポーションを飲ませます」
私がそう応じると、ルアンナはチラリと横たわるヴァルドを見た。
その視線は、ヴァルドの胸で咲く、薄く碧いガラスのような花に向けられている。
幻影……と思ったが、ルアンナにも見えているのなら、間違いなく花はヴァルドの胸で咲いているのだろう。なぜこの花がここで咲いているのか。これは謎であるが、今はまず、ポーションを飲ませよう。
「皇太子妃殿下、フロスト坊ちゃんは自分が預かっておきます」
「ありがとう、マッド。すぐ終わると思うけど、お願い」
そこで私は抱っこしているフロストに告げる。
「少しマッドと一緒にいてくれる?」
「いいよ」
こうしてフロストをマッドに預けた。
ルアンナはマッドと共に寝室から一旦退出。前室で待つことになる。
すぐにヴァルドの名を呼び、反応を待ったがダメだった。目覚める気配はルアンナの言う通りで、なし。
ならばとポーションを口に含み、それをヴァルドに口移しで飲ませた。
効果はすぐに出て、あちこちについていた擦り傷や切り傷は癒えて行く。
チラリと胸の方を見るが、あのガラスのような透明な花は、しっかりそこで咲いたままだ。
傷……というわけではないから、ポーションを飲ませたところで変化はないのだろう。
そこで思い出す。
幻の島では、一時間も経たずにその姿が消えてしまった。
このまま放っておけば、消えるのかしら?
違うわ。待つ必要はない。
触れたら淡い光を放ち、消えていたわよね!?
ということは触れたら、消えるかもしれない。
そう思い、透明な花に向け、手を伸ばした時。
心臓が大きく飛び跳ね、私は叫びそうになるのをなんとか堪えた。
これもまた、百年戦争のおかげで会得した技(?)でもある。戦場は不用意に悲鳴をあげたら命取りになるから……。
よく我慢したと思いながら「ヴァルド」と私の手首を掴む最愛の名を呼ぶ。
だがベッドに横たわるヴァルドは目をつむったままだ。
「ヴァルド……?」
『ミア』
私の名を呼ぶヴァルドの声は聞こえない。
でもつがい婚姻による共鳴で、ヴァルドの声が脳に届いた。
『ヴァルド! どうなっているの!? 目を覚ますことができないの?』
声には出さず、頭の中でヴァルドに語り掛ける。
『ポーションを飲むことで、一時的に魔力が回復し、何とか手を動かすことができた。でも意識を戻すことは……できない』
『なぜですか……? 何が起きているのですか!?』
『わたしの胸に咲いている花が見えるだろう、ミア。あの幻の島で咲いていたガラスのような透明な花だ。メラニーが突然豹変し、ケイン大公を攫おうとした時。あのブラックパールのような種が、メラニーの耳に見えたんだ。そこで魔術を使い、その種を耳から取り出そうとしたところ……』
そこで唐突にヴァルドの手が私の手首から離れた。
どうやら一時的に回復したという魔力も、わずかな時間で尽きてしまったようだ。
『メラニーが風の精霊の力を使い、私の魔術と激突した。さらにはあの種がわたしの方へ飛んできて……。心臓に直撃したと思った瞬間。ぶつかり合った私の魔術は完全に押されており、さらに建物が吹き飛ぶような爆発も起きた。心臓に突き刺すような痛みを感じ、意識を失う寸前、残りの力を振り絞り魔術を使った。どうやらそのおかげで三階から落下したが、激突は免れたようだ』
『ルアンナもそう言っていました。ヴァルドは意識を失う寸前に魔術を使ったのではないかと。それに植え込みに落下することで、クッションとなったのもよかったようです。それでヴァルドの心臓の上で咲いているガラスのような花、そしてヴァルドが目覚めないこと。これにはどんな関連性があるのですか?』






















































