【番外編】バカンス(10)
セフィーナに乗るのは初めてだったが、エストールより体が小さいおかげで問題なく乗りこなすことができた。しかもエストール同様、セフィーナは私の言葉を理解してくれる。
「昨晩いた砂州へ向かいたいの。セフィーナ、お願いね」
「了解です!」というようにセフィーナは頷くと、すぐに飛翔を始める。
エストールに乗ったヴァルドは、私と並走するように飛んでくれていた。
「ミア、問題ないか?」
「ええ、大丈夫です!」
そんな会話を交わしていると、あっという間に砂州が見えてくる。
朝焼けの空。
砂州はほんのりピンク色に染まっている。
そのままどんどん砂州に近づき、あの白い花があった辺りまで降下していくと。
「ヴァルド、あれがあの白い花の種なの?」
「そのようだ。なんというか……黒真珠のようだ」
「大きなキャビアみたいにも見えるわ」
「ミアは朝食を摂ったばかりなのに。もうお腹が空いているのか?」
そんなことをヴァルドと話しながら、その種を眺める。
数はとても多い。
これが海に沈み、でもどこにも流されず砂州内にとどまり、一年後の夏。またあのガラスのような透明な花を咲かせる。そしてお宝とも言える白い花を咲かせるのだ。
この種はここでもない場所でも花を咲かせるのかしら?
ふとそんなことを思うと、そもそもなぜここで咲いているのか?という疑問がやはり浮かんでしまう。だが最大の疑問はやはりこれ。
一体何のために?
その理由は、結局分からないままだ。
「ブルクセン大公国に戻ったら、図書館にでも行ってみるか。古い伝承に何かが残っているかもしれない」
「そうですね。では戻りますか?」
その時だった。
それまでホバリングをしていたセフィーナが急に指示していない動きをする。
「「セフィーナ!」」
ヴァルドと私が同時にセフィーナの名を呼ぶ刹那。
セフィーナの足が砂州をかすめていた。
短い鳴き声をあげ、上昇したセフィーナは、なんだか「ごめんなさい!」と言っている気がしてしまう。そうなると怒る気にはならない。代わりにヴァルドに尋ねていた。
「ヴァルドの使い魔なのに、こんな風に勝手な行動をすることがあるもなのですか?」
「通常はありえないことだ。とはいえ、使い魔になる前は普通の野生のオオワシだ。本能に基づく行動は多少制御が効きにくくなるかもしれないが……」
「なるほど。魔術植物の種は珍しいですよね? 気になってしまったのかもしれません」
私の言葉を聞いたヴァルドはふわりと笑顔になる。
「つまりセフィーナを叱る必要はないと?」
「ほんの一瞬のことです。別に私も落ちそうになったわけでもないので。無問題です」
「ミアらしいというか、相変わらず優しいのだな。では移動を開始しようか」
「ええ、そうしましょう」
この後の移動中、セフィーナに問題行動はない。
そして私とヴァルドは……。
無事、ブルクセン大公国へ戻ることができた。
◇
「そしてパパが強い魔力を感じて、エストールの背に乗って、移動をしたの。そうしたら地図では宝物があるはずの場所に、白い花が咲ていたのよ。碧白い月明かりに照らされているのに、その花だけ真っ白。とても不思議だったわ。それに間違いなく、その白い花が宝物だと分かったの」
「じゃあマァマ、たからものあったんだ!」
「ええ、そうよ」
フロストの部屋で今回の宝探しの冒険について話して聞かせていた。
ソファにヴァルド、フロスト、私の三人で横並びで座って。
マッドは廊下に、室内にはコスタとリカとマーニーが控えている。
「なぜ宝物である白い花を発見したのに、持ち帰らなかったのか。その理由、分かるか、フロスト?」
ヴァルドに尋ねられたフロストは即答する。
「おはなはいきているでしょう。もちかえるとかわいそうだから?」
この答えを聞いた私とヴァルドは頬がほころぶ。
「フロストもママと同じで優しい心の持ち主だ。そうだ。宝物を持ち帰るということは、花を手折ることになる。そのままにしておけば、そこで美しく咲き、種をつけることができるんだ。そこで持ち帰ってしまったら……花の命は終わってしまう」
「ぼく、いらないよ。おはながかわいそうなことはしないもん」
「そうだな。ママもパパもそうするべきではないと思ったんだ。そもそも誰が何のために砂州に魔術植物が育つようにしたのか。理由も分からないからな。でもきっと理由があるはずなんだ。花を持ち帰らなかったのは、あの場所で魔術植物が育つようにした人への敬意でもある」
これを聞いたフロストは、瞳をキラキラと輝かせる。
「パァパとマァマがみたおはな。いつかじぶんでみにいくよ」
やはり私の想像通りだった。
ヴァルド譲りで聡明なフロストなら、自身の力で成し遂げようとすると思ったが、やはりそれは正解。
ヴァルドもフロストの言葉を聞き、とても嬉しそうにしている。そしてこう伝えた。
「あの花が咲き誇った砂州はとても美しいものだった。フロストも一人で見るのでは勿体ない。パパとママのように。大切な人と一緒に見るといい」
「うん。ママみたいなやさしくてきれいなひとといっしょにみるね」
「ああ、そうするといい、フロスト」
ブルクセン大公国滞在は、残り僅かになっていた。






















































