【番外編】バカンス(9)
私の提案を聞いたヴァルドは、不意打ちの素敵な笑顔になると……。
「分かった。そうしよう」
「ヴァルド……!」
やっぱりヴァルドは私の良き理解者だ!
嬉しくなり、ヴァルドに抱きつくと……。
私の気持ちに応え、ヴァルドもぎゅっと抱きしめてくれる。
そして静かに呪文を唱えた。
すぐさまエストールとセフィーナが来てくれる。
「エストールにここから一番近い島へ連れて行ってもらおう」
まさにこの場から立ち去ろうとした時。
一斉に砂州からホタルが飛び立ったかのように、淡い光が上空へと舞う。
驚いてヴァルドと二人、動きを止め、周囲を見ると……。
砂州を覆っていた、あのガラスのような花びらの花は勿論、葉や茎も綺麗に消えている。
そこはヴァルドの言う通りで、魔術で作られた幻影のようなものだったのだろう。
こんな風に一瞬で消えてしまうと、なんだか寂しくもなる。
そこであの白い花の方はどうなのかと振り返ると……。
まだちゃんとそこに美しく咲いている。
「きっと引き潮が終わるまで花を咲かせ、そして種子を残し、消えるのだと思う」
ヴァルドの声にハッとして彼を見上げる。
「この魔術植物を生み出した人物は、強い魔力の持ち主だと思う。魔術植物だけではなく、月光をトリガーに魔術が起動するなんて、実に高度な術が使われている。何を目的で始めたものかは分からないが、そっとしておこう」
「そうですね」
お宝は手に入らなかった。
でも美しい景色は目に焼き付いた。
それに今回も素晴らしい思い出をヴァルドと作れたのだ、フロストのおかげで。
フロストを思い出し、愛おしく思う気持ちで心が満たされた。
それはヴァルドにも伝わり、彼は再び私をぎゅっと抱きしめる。
こうしてエストールの背にヴァルドと二人で乗ると、そのまま近くの無人島へと向かう。
近い……と言ってもエストールがいてくれるから近いわけで。
船の移動だったら翌朝に到着だっただろう。
エストールのおかげであっという間に無人島へ到着すると、ヴァルドは嬉しそうにこんなことを口にする。「砂州とは違い、木が沢山ある」と。私はこの言葉の意味を深く考えていなかったが……。
「ヴァルド……! 浜辺に天蓋付きベッドが唐突にあるのは変ではないですか!?」
「そうか? 誰の目があるわけではない。変であるとか気にする必要はないだろう。それに元は倒木だが、魔術で強化してある。ちゃんと強度もあるから問題ない」
え、魔術で強化?
強度もあるから問題ない!?
それって……!
「ミア」と名を呼ばれ、ぽすっと倒れ込んだベッドは……。
マットレスは完璧な弾力があり、掛け布はシルクですべすべ。皇宮のベッドと遜色がない。
というか。
想像以上に快適!
これを魔術で用意したなんて。
ヴァルドはやはり魔術でも天才だわ!
「ミアを悦ばせる天才でもあると、自負しているのだが」
「もうヴァルドったら!」
「違う……とは言わせないぞ」
そこからのヴァルドは、有言実行の天才ぶりを発揮。
私はここが無人島で良かったと心底思うような、甘い声を上げることになる。
そして。
ヴァルドの胸の中に包まれ、大人の宝探しの冒険は終了した。
◇
翌日。
沢山の鳥や獣の鳴き声で目覚めることになる。
エストールとセフィーナが事前に、この無人島に上陸していた。弱肉強食の頂点は、エストールとセフィーナだとすぐに分かったようだ。獣たちは近寄って来ない。
だが無人島の主はこの鳴き声の彼らだ。
「おはよう、ミア。百年戦争の最中でも、こんなに沢山の鳥や獣の声で目覚めることはなかったな」
「ふふ。戦場では鳥や獣より人間が多かったですから」
「そういえばエストールとセフィーナが、いろいろとフルーツを集めてくれたぞ」
「! 本当ですか! では早速朝食に……うん……」
しばしの甘い時間の後、フルーツ盛沢山の朝食を楽しみ、服を着替えた。
シャツを着て、ズボンを履くと、気分はリヴィ団長になる。
「リヴィ団長になると、ミアはいつも以上に姿勢がよくなるな。そして少し動きが男性のようになる」
「それは……そうですね。意図的にずっとそうしていたので。まだ抜けないみたいです」
「ならばリヴィ団長。セフィーナに一人で乗ってみるか? エストールより一回り小さいから、馬に乗る要領で問題ない」
これには「本当ですか!」と大喜びして、早速セフィーナに挨拶をして乗せてもらう。
「大丈夫そうだな。では出発しよう」
「ヴァルド、あの白い花がどうなったのか。最後に上空からでいいので、確認してからブルクセン大公国へ戻りませんか?」
「ああ。そうしよう」
フロストの元へ戻る前に砂州を見ることになった。






















































