【番外編】バカンス(8)
「ミア」
ヴァルドが真剣な表情で私の名を呼んだので、ドキッとしてしまう。
「あの方向、宝の地図が何を示していたか、覚えているか?」
しばし考えていた私はハッとして思い出す。
「お宝があると示されていた方角ですよね?」
「そうだ。その方角に一際強い魔力を感じる……」
「!? そうなのですか? ……行ってみますか?」
そう口にしたものの。
このままそこまで向かうには、この薄いガラスのような美しい花を踏みしめることになる。
それは……可哀想でできない。
ヴァルドを見上げると、その顔には優しい笑顔が浮かんでいる。
「わたしもミアと同じ気持ちだ。エストールを呼ぼう」
ヴァルドが呪文を唱える声が響き、エストールとセフィーナがすぐに姿を現わす。
その背に乗り、上空へと飛翔すると……。
「ヴァルド、すごいわ! 星の海の中を進んでいるみたい」
「手を伸ばせば、星を掴むことができそうだ」
そんな会話を交わした直後、もうお宝が示されていた場所についてしまう。
ここはもうさすがエストール!だ。
だがここで。
「「あっ!」」
私とヴァルドの声が揃ってしまう。
「ヴァルド、見えました?」
「見えた。なんだか今日の冒険だけで、一生分の驚きを体験した気分だ」
そんな風にヴァルドが言いたくなるのはよく分かる。
だって。
お宝を示していただろう位置で咲いている花は、ガラスのように透明で碧いわけではない。
なんと真っ白な花を咲かせているのだ!
碧白い月光を受けているにもかかわらず、白く見えるのは……。
花が白く輝いているのかもしれない。
「エストール、ホバリングをして欲しい」
エストールは器用にホバリングを行い、ヴァルドが先に地上へ降りた。
花を踏まないように気を付けているが、それでも踏まないは無理な程、びっしりと花は咲いているからだ。
「「!」」
ヴァルドが花を踏むと、淡い光がホタルのようにふわりと飛び立ち、そしてフッと消える。
その際、鈴のようなリンという音が、かすかに聞こえた。
ヴァルドに続き、私もエストールから降りたが、やはり花を踏んでしまい……。
地上から天に向かっていくつもの淡い光が舞い上がり、それはそれでとても綺麗なのだけど。花の命を奪ってしまったようで、心配していると、ヴァルドがこんな風に告げる。
「ミア。分かって来た。透明な花びらの花は、魔術で作られた幻影に近い。指で触れ、輝き、音もしているが本来の植物が持つ生命力がない。ゆえに命を奪ったと考えなくて大丈夫だ」
「そうなのですね。ではこの白い花も……」
お宝と示された場所に咲いている白い花。
碧白い月光を受けても白く見える。
しかもヴァルドはこの白い花に強い魔力を感じたのだ。
これも魔術による幻影なのかと思ったら……。
「いや、これは違う。これこそがなんというか……本体だ」
「ということはガラスのように透明な沢山の花たちは、ここに咲いている白い花の“おまけ”のような存在……ということですか?」
「それは……近いようで遠いというか。……宝の島は、幻の島と言われていたが、存在していた。そして宝は存在しないと思ったが違う。宝物はちゃんとある」
ヴァルドがいわんとすることが、じわじわと分かってくる。
「おそらくは毎年この時期に、この不思議な碧白い光を放つ月が昇る。この時の月光がトリガーとなり、砂州の中に埋もれていた魔術植物の種が成長を始める。そして透明な花びらを持つ花を咲かせるわけだ。ガラスのような花は見ているだけでも十分に美しい。これが宝だと言われても、わたしは同意できる。だがそれでは納得しないだろうとばかりに、この白い花が咲いている気がした」
「つまりこの白い花がお宝……なんですね……!」
「ああ。この白い花が正解だ。間違いなく、この白い花が次世代の魔力を持つ種子をつけるはず」
ヴァルドのこの推理には納得だ。
ガラスのように透き通っている花は、踏んだ瞬間、淡い光となって消えてしまう。これでは魔力を持つ次の世代の種子を残していないことになる。
そうなると種子を残せるこの白い花は、間違いなくお宝だった。
「でも……せっかくここで一年に一度、美しい花を咲かせているんですよ。……何のためにここで咲いているのかは分かりませんが。でもきっと意味があって咲いているはずですよね。その意味が今に伝わっていないのが残念ですが……。それでも最初は意図があり、スタートしたと思うのです」
「それはミアの言う通りだと思う」
ヴァルドが理解してくれたことが嬉しくなり、思わず笑顔になってしまう。
その上でこう続けた。
「この白い花がお宝だというのは、よく理解できました。それにフロストのために持ち帰りたい気持ちはあるものの……」
そこで私はヴァルドを見る。
「この花はここで一年に一度、人知れずこの美しい花を咲かせるのでいいのではないでしょうか? お宝である白い花は、ヴァルドと私の目に焼き付けましょう。そしてフロストには……お宝がなかった時と同じでいいと思います。つまり言葉で今日のことを伝えるのでいいのではないかと。私達の話を聞き、フロストの心に響くものがあれば、きっと将来自身の力で見に来ると思います。……自身の最愛と一緒に」
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明日から週末にかけ、22時頃更新にします。
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