【番外編】バカンス(7)
ヴァルドの発言にドキドキさせられた夕食の時間が何とか終わった。その後は後片付けをしたり、海水を魔術で水に変え、水浴びをしたり。
そうして時間として20時頃だろうか。
「ヴァルド!」
「あれは……初めて見たな。でも図鑑で見たことがある。夜光虫だろう」
海の中でネオンブルーに輝いている場所があったのだ!
「夜光虫は海に住む小さな生物と言われている。魚の餌になるような。捕食者から身を守るためにも光るとも言われているが、そのメカニズムはまだ解明されていない」
「そうなんですね。何らかの刺激に反応して光るのでしょうか」
「そう考えられている。夜光虫達は今、何かに大騒ぎしている。だがわたし達からすると、ただただ美しい」
それはヴァルドの言う通り。
夜光虫には申し訳ないが、本当にそれは目を見張るような美しさだったが。
「月が昇ってきたな」
ヴァルドの言葉に顔を上空に向けてビックリ。
だってクレーターまでハッキリ見える大きさと輝きで月が見えたのだ!
しかも……。
「碧く輝くなんて、珍しいな」
そうなのだ!
周囲の星の影響?
とにかく月光は夜光虫と同じように碧白く輝いていたのだ。
その上で、幻の島は真っ白な砂州。
ゆえにヴァルドと私のいる場所も月光を受け、碧白く煌めいていたのだけど……。
足元で何かを感じた。
「ヴァルド、何か足元で……」
「これは何だ……?」
それはとても現実のこととは思えない。
でも……現実だった。
碧白く輝く砂の合間から、双葉が顔を出したと思ったら……。
それは一斉に砂州全体で起きていたのだ!
つまり砂州を埋め尽くす勢いで双葉が姿を現わしていた。
それだけでも驚愕する事態なのに。
「な……この成長速度は……!」
ヴァルドが驚くのも当然。
私だって口をポカーンと開けてしまう。
双葉が生えたと思ったら、双葉の間からもう本葉が見えてきたのだ。
同時にスルスルと茎も成長している。
「ヴ、ヴァルドが魔術を使っているわけではないのですか!?」
「使っていない。……だが、そうか。わたしは魔術を使っていないが、これは魔術植物なのかもしれない」
「魔術植物……それはポーションを作るのに使う植物のことですか?」
私が尋ねるとヴァルドは「そうだ」と頷く。
「魔術植物と言っても、それは魔力を持つ者が作り出す。自身の魔力を植物に移し、その魔力で成長した植物は、魔力を持った種子を実らせる。その種子を育てると、またも魔力を持つ植物として成長するわけだ。勿論、魔力を持つ種子が実る。そうやって魔術植物は数を増やすが、ある時、限界を迎える。元の魔力の強さに応じ、魔力を持つ植物の世代重ねが制限されるのだが……」
そこでヴァルドは自身の手を、どんどん成長する魔術植物に向ける。
「……強い魔力を感じる。なるほど。この魔術植物は一年に一度しか発芽しない。よって代重ねはしているが、その回数は限られている。まだまだ魔力が濃い状態なのか」
「ヴァルド、蕾が……」
「ああ。どうやら花も咲かせてくれるようだ」
月光がひときわ強く輝く中。
あれよ、あれよという間に成長した魔術植物は……。
双葉が芽を出したのも。
本葉が顔を覗かせたのも。
茎がスルスルと成長したのも。
辺り一面で同じ工程を辿っていた。
成長が遅れているものがある――なんてことはなく、すべて同じ速さで成長している。
そして今も一斉に、蕾が花開いた。
「ヴァルド……!」
「今日、何度目の驚きだろう。こんな景観、初めて見た」
咲いたのは、花びらが透明な花!
碧白く輝く月光を受け、まるで透明感のある薄く碧いガラスのように見える花が、砂州一面に咲いている。
それはもう静謐な美しさで、見ていると感動で涙が出そうだった。
「この景色は……フロストは勿論、リカやコスタ、マッド、それにケイン大公……みんなに見せたかったわ」
「ああ。これはわたし達二人だけではなく、皆に見せたくなる美しさだ……」
ヴァルドも私と同じように、感無量になっていることが伝わって来る。
そこでヴァルドが近くで咲いている花に触れると……。
なんとそれは夜光虫のように淡く光る。
その優しい光にさらに感動が深まってしまう。
「ヴァルド、この花が魔術植物なら一体誰が何のためにここに植えたのかしら? 一年に一度。夏のこの時期に花を咲かせる。このことにどんな意味があるのかしら?」
「どうだろう。これだけ美しいと、ただこの絶景を見るために生み出した……と言われても納得できてしまうが」
あまりの美しさに圧倒され、ヴァルドと私は気づいたら、お互いに身を寄せていた。
海風は穏やかに吹いているが、その風にさえ反応した花びらが、淡く光っている。
砂州一面が優しく淡い光に包まれていた。
「ミア」
ヴァルドが真剣な表情で私の名を呼んだ。






















































